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ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死



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ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死     (厚生労働省
英語名: Bisphosphonate-Related Osteonecrosis of the Jaws
  • ビスホスホネート系薬剤による治療中に、ある種の医薬品、局所(あご付近)への放射線治療、抜歯などの歯科処置、口腔内の不衛生などの条件が重なった場合、あごの骨に炎症が生じ、さらに壊死する顎骨壊死がみられることがあります。
  • ビスホスホネート系薬剤による治療を受けていて、次の様な症状がみられた場合には、放置せずに医師・歯科医師・薬剤師に連絡してください。
    • 「口の中の痛み、特に抜歯後の痛みがなかなか治まらない」、
      「歯ぐきに白色あるいは灰色の硬いものが出てきた」、
      「あごが腫れてきた」、
      「下くちびるがしびれた感じがする」、
      「歯がぐらついてきて、自然に抜けた。」
顎骨壊死とは?
  • 顎骨壊死とは、あごの骨の組織や細胞が局所的に死滅し、骨が腐った状態になることです。あごの骨が腐ると、口の中にもともと生息する細菌による感染が起こり、あごの痛み、腫れ、膿が出るなどの症状が出現します。
    さまざまな薬剤(ビスホスホネート系薬剤、抗がん剤、がん治療に用いるホルモン剤、副腎皮質ステロイド薬など)により骨壊死が生じたことが報告されています(代表的な医薬品についての詳細は本マニュアルの最後にある参考1 を参照してください)。特に、近年は、ビスホスホネート系薬剤と呼ばれる薬剤と顎骨壊死との関連性が注目されています。
    ビスホスホネート系薬剤には、注射薬と内服薬があります。
    注射薬は
    • @悪性腫瘍(がん)の骨への転移、
      A悪性腫瘍による高カルシウム血症、
    内服薬はB骨粗鬆症に対する治療に用いられており、これらの病態に対して非常に有用ですが、極めてまれに投与を受けている患者さんにおいて、顎骨壊死が生じたとの報告があります。内服薬と比較して注射薬で発生しやすいと考えられています。ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死は、典型的には歯ぐきの部分の骨が露出します。無症状の場合もありますが、感染が起こると、痛み、あごの腫れ、膿が出る、歯のぐらつき、下くちびるのしびれなどの症状が出現します。


早期発見と早期対応のポイント
  • ビスホスホネート系薬剤の投与を受けていて、「口の中の痛み、特に抜歯後の痛みがなかなか治まらない」、「歯ぐきに白色あるいは灰色の硬いものが出てきた」、「あごが腫れてきた」、「下くちびるがしびれた感じがする」、「歯がぐらついてきて、自然に抜けた」などの症状が出現した場合は、すみやかに医師、歯科医師、薬剤師に相談してください。
    ビスホスホネート系薬剤投与による顎骨壊死は、単独でも生じますが、以下のような治療を受けている場合に生じやすいとされています。
    1. がんに対する化学療法、ホルモン療法
    2. 副腎皮質ステロイド薬の使用
    3. 抜歯、歯槽膿漏に対する外科的な歯科処置
    4. 局所(あご付近)への放射線治療
  • さらに、顎骨壊死は、口の中が不衛生な状態において生じやすいとされています。従って、ビスホスホネート系薬剤の投与を受けている患者さんは、定期的に歯科を受診し、歯ぐきの状態のチェックを受け、ブラッシング(口腔清掃)指導、除石(歯石の除去)処置などを受けておくことが大切です。その際には、ビスホスホネート系薬剤の投与を受けていることを歯科医師にお伝えください。
    ビスホスホネート系薬剤には、注射薬と経口薬(内服薬)があります。
    顎骨壊死の発生頻度は、経口薬と比較して圧倒的に注射薬で高いとされていますが、経口薬でも生じる場合があります。
    ビスホスホネート系薬剤に関連した病変が生じる部位は、現在のところあごの骨に限られています。ただ、一度発症すると完全に治癒するのは困難です。従って、日頃の予防が極めて大切です。そこで、本マニュアルを参考に、ビスホスホネート系薬剤による治療を受けている患者さんに、あごの病変が生じる可能性があること、ならびにその予防法を知っていただき、専門医による積極的、定期的な予防処置を受けられることをおすすめします。
(1)初期症状:
  • 局所的には、歯肉腫脹など歯周組織の変化、原因が不明瞭な歯肉の感染、治癒傾向が認められない口腔粘膜潰瘍、膿瘍または瘻孔形成、義歯性潰瘍、周囲軟組織の炎症を伴った骨露出、歯の動揺、歯肉の修復機能低下、顎骨の知覚異常、全身的には倦怠感、発熱などがある。

    典型的な症状としては、抜歯した部位の疼痛と骨の露出である。

    これらの症状は一般的な歯性感染症においても観察されることが多いが、本病態の場合には、口腔内における骨露出が特徴的で、治療に対して抵抗性であり、全く治癒傾向が認められないことが多い。一方、無症状で、歯科検診や患者が口腔内を観察した際に偶然に発見される場合もある。
    ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死は、なんらかの原因で、顎骨が露出した場合にみられることが多い。すなわち、抜歯、外傷、義歯不適合による歯槽粘膜の外傷性潰瘍などにより、粘膜欠損、骨露出が生じた場合に発現する傾向にある。特に、口蓋隆起、下顎隆起などの骨隆起が存在する場合には、同部の粘膜は菲薄なことがあり、注意が必要である。一方、無歯顎患者で、義歯不適合による外傷が明らかでない場合にも生じることがある
(2)リスク因子:
  • 顎骨壊死のリスク因子としては、薬剤に関連する因子、局所的因子、全身的因子が挙げられている
  • 1)ビスホスホネート系薬剤の種類ならびに投与期間
    • ・経口薬と比較し注射薬で発生しやすい。 なお、経口ビスホスホネート系薬剤においては、顎骨壊死の発症率は有意には高くないとの報告もある。
      ・ゾレドロン酸>パミドロン酸の順で発生しやすい。
      ・長期間投与を受けている患者で発生しやすい。
  • 2)局所的因子
    • ・局所解剖:上顎と比較し下顎に多いとされている。下顎においては、下顎隆起ならびに顎舌骨筋線、上顎においては、口蓋隆起に発生しやすい。
      ・歯科処置:歯科処置の中でも、観血的処置に関連して生じる場合が多い。すなわち、抜歯、歯周外科処置、インプラント埋入手術、歯根端切除術(歯根の先端部のみ切除)などに関連して発症したとの報告が多い。
    • ビスホスホネート系薬剤を経口服薬中の患者に、抜歯など侵襲的な歯科処置を行う際には、処置の3ヶ月前から処置後3ヶ月の間、投与を中止することにより、顎骨壊死の発生率は低下するとされている。
      ・口腔内の不衛生:原則的に顎骨に至る炎症により顎骨壊死を起こすと考えられている。最も多く認められる歯科疾患として、歯周疾患が挙げられている2)。口腔内には約500 種類の細菌が存在し、口腔内の清掃状態が悪い場合、歯面に歯垢(デンタルプラーク)が付着、バイオフィルムを形成し、さらに歯石へと変化する。歯垢、歯石は歯肉に炎症を引き起こし、辺縁性歯周炎(歯槽膿漏症)となる。辺縁性歯周炎においては、歯肉、歯槽骨の炎症により歯槽骨の吸収が認められるようになる。
      また、辺縁性歯周炎により歯の保存が不可能になることがあり、抜歯が適応となることがある。う蝕においても、放置することにより、歯髄炎、根尖性歯周炎(歯根の先端部の炎症)へと病態が進み、顎骨の炎症を惹起する。特に、抜髄(歯の神経を除去する処置)後の歯は、クラウンなどで歯科補綴的処置(金属冠などで被覆する処置)をされることが多く、気づかない間に歯の根尖部に炎症を引き起こしていることがある。・局所(あご付近)への放射線治療
  • 3)全身的因子
    • ・がんの化学療法、ホルモン療法、副腎皮質ステロイド薬の投与):
      全身がん化学療法を受けた既往のある患者に発症することが多い。投与された抗がん剤の種類、レジメンに関係なく生じる可能性がある。副腎皮質ステロイド薬においては、ビスホスホネート系薬剤投与と同時期に静脈注射されている場合や、内服薬でも生じることがある。
      ・糖尿病9):顎骨壊死を生じた患者の約6 割が糖尿病に罹患していたとの報告があり、一般的な糖尿病の罹患率と比較し、高率であることが指摘されている。その原因として、糖尿病の患者においては、骨の微小血管系が虚血傾向にあること、血管内皮細胞の機能不全、骨のリモデリングの障害、骨細胞または骨芽細胞のアポトーシス誘導などが挙げられている。
      ・その他:アルコール摂取、喫煙、高齢者など。



2.副作用の好発時期
ビスホスホネート系薬剤投与開始から骨露出が認められた期間に関しては、
  • 1〜4 年以上1) 、
  • 12〜77 ヶ月8) 、
  • 10〜59 ヶ月10)、
  • 6〜66ヶ月(平均22 ヶ月)11)、
  • 10〜70 ヶ月(中央値33 ヶ月)12)
などさまざまな報告がある。

薬剤別には、パミドロン酸で14.3 ヶ月、ゾレドロン酸で9.4 ヶ月、パミドロン酸からゾレドロン酸に変更したもので12.1 ヶ月との報告がある。
抜歯など、侵襲的な歯科処置を行った後、顎骨壊死が生じるまでの期間の中央値は7 ヶ月(範囲:3〜12 ヶ月)と報告されている



3.副作用の概要
ビスホスホネート系薬剤と関連する顎骨壊死の報告は、2003 年よりみられる。当初は、がん化学療法を顎骨壊死の原因と考えた報告もあるが、ほぼ同時期にビスホスホネート系薬剤が直接関連したとする報告がみられる。以降、海外においては、2006 年4 月までに2,500 例以上の症例が確認されている。我が国においては、2006 年16)、2007年17)にそれぞれ詳細な症例報告がなされている。
1)自覚症状

最も典型的な症状は、疼痛と骨露出である。特に、抜歯部位に発生することが多い。その他、歯の動揺、下唇の知覚異常、倦怠感などがある。罹患部位の疼痛、腫脹が一般的であるが、全く無症状の場合もある。


2)身体所見

最も典型的な身体所見は、上顎骨ならびに(または)下顎骨の骨露出を伴った有痛性腫脹である。二次的に膿瘍や瘻孔を形成していることもある。その他、骨髄炎と同様の症状が認められることが多い。全身的には倦怠感や発熱、局所においては罹患部位の歯の動揺、下顎に生じた場合には下口唇の知覚異常などが認められることがある。


3)画像検査所見

エックス線CT、パノラマエックス線写真が有用である。一般的な骨髄炎でみられる像が認められる。すなわち、骨融解像、骨硬化像、虫食い像などが、単一あるいは複合して認められ、腐骨が確認される場合もある。99mTc シンチグラムにおいて、壊死部分またはその周囲に集積像がみられる。


4)発生機序

体内に入ったビスホスホネートは、ピロリン酸の類似体として代謝されることなく骨組織に吸収され、破骨細胞に貪食されることにより破骨細胞の機能に影響を及ぼし、骨吸収を阻害する。具体的には、
  • @破骨細胞のアポトーシス誘導、
    A単核細胞や前駆細胞からの破骨細胞への分化阻害、
    B破骨細胞の酵素活性の阻害、
    Cヒドロキシアパタイトへのビスホスホネート沈着による骨微細構造の変化、
    D抗血管新生作用
などの機序が報告されている。
これらの作用機序より、ビスホスホネートは、生理的ならびに病的な骨吸収を抑制する。歯周疾患、骨髄炎などに関連する骨吸収は、元来生体にとって予防的な事象であるが、これらの予防的機序がビスホスホネートにより障害されると、組織障害、組織への血液供給不足を生じ、骨壊死が起こるとされている。さらに、抗血管新生作用により直接的に顎骨への血液供給ならびに組織の修復能の低下をもたらすことにより骨壊死が生じるとされている。



副作用の診断基準
現時点で統一された診断基準はなく、米国口腔顎顔面外科学会では、診断基準を以下の3項目の全てにあてはまる場合としている

@現在または以前にビスホスホネート系薬剤により治療を受けた既往がある

A8週間以上継続する骨露出が顎口腔領域にみられる

B顎骨に対する放射線治療の既往がないこと



判別が必要な疾患と判別方法
@原疾患の顎骨への転移
  • 我が国においては、静注用ビスホスホネート系薬剤の投与を受けている患者の大半は、多発性骨髄腫、乳がんなどに罹患した既往がある。従って、原疾患の顎骨転移の可能性を第一に否定する必要がある。転移性がんの臨床所見は、一般的な口腔がん(扁平上皮がん)と異なる場合があるので、診断に迷うことがある。観血的処置を避けるために細胞診が望ましいが、さらに診断が困難な場合は組織診を行うこともある。

A放射線性骨壊死
  • 頭頸部に対して60〜70Gy の放射線照射の既往がある場合には、晩期障害として放射線性骨壊死を発症することがある。放射線性骨壊死も極めて難治性の疾患であるが、高圧酸素療法、下顎骨の区域切除などの適応となる。一方、ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死においては、高圧酸素療法に抵抗性であり、露出骨を粘膜弁などで被覆するなどの積極的な外科処置はさらに病変を拡大させるとの報告もあり禁忌である。
    鑑別は臨床所見のみでは困難なことがあるが、ビスホスホネート系薬剤投与の既往がある場合には、ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死を第一義的に考え治療を行うのが肝要である。

B義歯性潰瘍
  • 義歯性潰瘍を始め、外傷性潰瘍は口腔内において頻繁に遭遇する病態である。単純な外傷性潰瘍においては、その原因を除去することにより速やかに治癒傾向が認められる。骨粗鬆症の診断下にビスホスホネート系薬剤の経口薬を服用している患者は多く、適切な刺激除去(義歯調整など)に抵抗性の場合には、ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死として対処する。







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