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急性呼吸促迫症候群(ARDS)
急性肺損傷(ALI)




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急性呼吸促迫症候群
(ARDS)
acute respiratory distress syndrome

呼吸膜の過剰な漏れと深刻な低酸素状態が特徴の疾患



ARDSは
  1. 溺れかけたとき、
  2. 酸性の胃液を吸引したとき、
  3. 薬物による反応、
  4. アンモニアのような刺激性ガスを吸入したとき、
  5. アレルギー反応として、
  6. 肺炎や結核のような感染症、あるいは
  7. 肺高血圧症・・・ で起きることがある。



【病態】
  • 多様な原因、たとえば
    • [敗血症]
    • [多臓器性外傷]
    • [急性膵炎]
    • [誤嚥性肺炎]
    から発症する。


肺血管内皮細胞傷害による透過性亢進型(非心原性)肺水腫を伴う急性呼吸不全と定義される。
【診断基準】
  • @急性発症
    A両側びまん性浸潤陰影
    B左心不全の除外
    CPaO2/F1O2≦200

【検査】
  • 動脈血ガス分析
    胸部X線
    心電図
    血算・血液像
    生化学検査・・・低酸素血症から、[LDH][GOT][GPT]が上昇
    凝固・線溶機能検査
    細菌学的検査
    右心カテーテル検査




急性肺損傷
・急性呼吸窮迫症候群
(急性呼吸促迫症候群)
英語名:
ALI(acute lung injury)・
ARDS (acute respiratory distress syndrome)
同義語:

成人型呼吸窮迫症候群
(成人型呼吸促迫症候群)厚生労働省


動脈血液中に酸素が取り込みにくくなり、急な息切れや呼吸困難などが出現する「急性肺損傷・急性呼吸窮迫症候群」は、医薬品によって引き起こされる場合もあります。


主に抗がん剤、抗リウマチ薬、血液製剤などでみられることから、何らかのお薬を服用していて、または輸血していて、次のような症状がみられた場合には、放置せずに医師・薬剤師に連絡してください。

息が苦しい」、
「咳・痰がでる」、
呼吸がはやくなる」、
脈がはやくなる
急性肺損傷(ALI)

・急性呼吸窮迫症候群(急性呼吸促迫症候群)(ARDS)とは?


敗血症(血液中に細菌などが入って増殖する状態)や肺炎などの経過中や、誤嚥(食べ物などを飲み込む時に誤って気道に入ってしまうこと)や多発外傷(体の複数の箇所に損傷を受けた状態)などの後に、

急に息切れや呼吸困難が出現し、胸部のX 線写真で左右の肺に影(浸潤影)がみられる病態を言います。

動脈血液中の酸素分圧(Pao2)が低下し(低酸素血症)、その程度に応じて、ALIまたはARDS と呼ばれます

注)
同じような状態を示す病態に
左心不全があり、しばしば判別(鑑別)が困難なこともありますが、病態の発生メカニズムは全く異なります。



ALI あるいはARDS の場合の低酸素血症に対しては、酸素吸入だけでは改善は不十分で、人工呼吸器の装着を余儀なくされることも多く、予後の悪い病態です。


医薬品が関係するALI またはARDS には、抗がん剤、抗リウマチ薬などによるもの、また、血液製剤によるものがあります。


早期発見と早期対応のポイント
  • 息が苦しい」、「咳・痰がでる」、「呼吸がはやくなる」、「脈がはやくなる」場合で、医薬品を服用している、
  • または輸血している場合には、放置せずに担当医師又は薬剤師に連絡をとり、ただちに受診してください。
    また、輸血中もしくは輸血後数時間以内に上記と同様の症状を認めた場合にも、すみやかに医師又は看護師などに連絡してください




(1)副作用の好発時期
医薬品により好発時期は異なる。

輸血関連急性肺障害 (
TRALI: transfusion related acute lung injury) は輸血中に発生するものもあり、輸血開始後6 時間(多くは1〜2 時間)以内に発生することが多く、投与後早期に発生する。

肺癌の分子標的薬ゲフィチニブでは4 週間以内の急性肺障害・間質性肺炎の発生率および転帰死亡の発生率が6 週以降より高い。
ゲフィチニブの急性肺障害、間質性肺炎はどの時期でも発生があり得るが、投与開始後4週間までは入院に準ずる厳重な経過観察が必要とされる。

抗不整脈薬のアミオダロンの肺障害は、投与後1 ヶ月以降から2〜3 年に発生することが多い。

一般的に医薬品投与後いかなる時期でもALI/ARDS が発生する可能性があり、肺障害発生時には医薬品が原因である可能性を検討すべきである。特に新たな医薬品の投与開始後早期には慎重な経過観察が必要である。




(2)患者側のリスク
基礎疾患として間質性肺炎がある場合は、ALI/ARDS が発生しやすい。

間質性肺炎がある場合は、抗悪性腫瘍薬のゲムシタビン、イリノテカン、アムルビシンは使用が禁忌とされ、

パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビンは慎重投与とされている。

分子標的薬のゲフィチニブや抗リウマチ薬のレフルノミドも間質性肺炎において慎重投与とされている。

呼吸機能低下症例でも肺障害が発生しやすい。

医薬品によるが、喫煙により発生のリスクが増加することがある(アスピリン、ゲフィチニブなど)。ゲフィチニブに関して、男性の症例、PS (performance status) 2 以上の症例で、急性肺障害、間質性肺炎による死亡率が高くなるとの報告がある。ゲフィチニブでは欧米人でALI/ARDS の発生が低頻度であり、人種差がある可能性が指摘されている




(3)投薬上のリスク因子
悪性腫瘍の場合、放射線療法との併用または放射線療法終了後早期の抗悪性腫瘍薬投与でALI/ARDS の発生のリスクが増加する。ゲムシタビンは放射線療法との併用は禁忌とされている。


また、単独の投与より、多剤併用投与でリスクが増加すると考えられる。


ALI/ARDS については、血中濃度がある一定の値を超えると発生しやすい医薬品(アスピリン:30mg/dL 以上10)など)、

一日の投与量がある量を超えると発生しやすい医薬品(アミオダロン:400 mg/day 以上5)など)、

累積投与量がある量を超えると発生しやすい医薬品(ブスルファン:500 mg 以上11)など)がある。




(4)患者もしくは家族が早期に認識しうる症状
咳嗽、喀痰、労作時呼吸困難、発熱、易疲労感などから疑うが、

初期症状は非特異的である。




(5)早期発見に必要な検査と実施時期
肺拡散能 (DLco) の経時的な測定が早期発見に有用であるとする報告がある。


酸素飽和度 (Spo2)、動脈血酸素分圧 (Pao2)、肺胞気・動脈血ガス分圧較差 (A-aDo2) の定期的な測定も有用であると考えられる。



リスクが高い症例の定期的な胸部X 線写真、症状がある症例に対する胸部X 線写真は重要である。


胸部X 線写真で正常に見えても、胸部CT、特に高分解能CT (HRCT) で陰影を検出できる場合があるので、肺障害の発生が疑われたらHRCT を積極的に施行する。


荷重の影響との鑑別に腹臥位HRCT が有用な場合がある。


採血検査では、炎症の指標として白血球数、赤沈、CRP、肺障害の指標として非特異的であるがLDH、アレルギーの指標として好酸球数とIgE、間質性肺炎の指標としてKL-6 とSP-D が有用である。上記の各種指標を医薬品の投与前と投与後に定期的に、特に早期は頻回に検査することが望ましい。





2.副作用の概念
・急性肺損傷(ALI)

・急性呼吸窮迫症候群(急性呼吸促迫症候群)(ARDS)とは、
  • 敗血症、肺炎などの経過中や誤嚥、多発外傷などの後に、急性に息切れ・呼吸困難が出現し、胸部X線写真で左右の肺に影(浸潤影)がみられる病態をいう。動脈血酸素分圧(Pao2)が低下し(低酸素血症)、その程度に応じて、ALI またはARDS と呼ばれる。この場合の低酸素血症に対しては、酸素吸入のみでは改善は不十分で、人工呼吸器の装着を余儀なくされ、また治療が有効でないことも多く、死亡率が約40%と予後の悪い病態である。

(1)自覚症状
  • 咳嗽、喀痰、発熱、呼吸困難、易疲労感などがあるが、非特異的である。

(2)身体所見
  • 頻呼吸、胸部の聴診での捻髪音や水泡音の聴取などがある。

(3)臨床検査所見
  • 酸素化およびガス交換の状態を反映する指標としてSpo2 とPao2 の低下、A-aDo2 の開大を認める。呼吸機能検査ではDLco の低下を認め、障害が進行した症例では肺活量(VC)が低下する6), 7), 8)。血液検査では、炎症の指標として白血球数の増加、赤沈およびCRP の上昇、肺障害の指標として非特異的であるがLDH の上昇、アレルギーの指標として好酸球の増加、IgE の上昇、間質性肺炎の指標としてKL-6 とSP-D の上昇を認める。

(4)画像検査所見
  • 医薬品による肺障害では種々の陰影を呈するが、ALI/ARDS となった症例では胸部X線写真、または胸部CT で両側びまん性に浸潤影またはスリガラス陰影を呈する6), 7), 8)。アミオダロンではヨードを含むため、胸部CT で高い吸収値を示す浸潤影を認める

(5)病理検査所見
  • ALI/ARDS の病理組織像は、肺水腫またはびまん性肺胞傷害(DAD: diffusealveolar damage)を呈する。DAD の基本的組織像は、発症後約1週間を境に浸出期と増殖期に分けられる。初期は高度な肺胞上皮傷害、内皮傷害により肺胞上皮の壊死、アポトーシスが起こり、肺胞上皮―毛細血管のバリアが破綻し、肺胞腔内に上皮細胞崩壊物と高濃度の血漿成分の浸出が加わり、硝子膜が形成される。発症後1 週間が経過すると、間質の線維芽細胞の活性化と、肺胞腔内の線維芽細胞の増殖が起こる。線維芽細胞は細胞外基質を豊富に産生し、改善されない場合は、肺胞道以下の末梢気腔の虚脱、肺胞道領域の膠原線維の沈着が起こる。

(6)発生機序
  • 医薬品投与によって生成される活性酸素による傷害、細胞毒性がある医薬品による直接的な肺胞毛細血管内皮細胞傷害、細胞内へのリン脂質の蓄積、免疫学的な機序による傷害などが、発生の機序として考えられている。

(7)医薬品ごとの特徴
  • 抗悪性腫瘍薬は直接的な細胞傷害を生じることが多い。ニトロフラントインなどの慢性的な投与で、活性酸素による傷害が生じる。アミオダロンなどの陽イオン性の医薬品で、細胞内のリン脂質の蓄積による傷害が生じる5)。輸血関連急性肺障害(TRALI)では、供血者とくに多産の女性の供血者の抗白血球抗体に受血者の白血球が反応するタイプのものが90%であるとされている。

(8)副作用発現頻度
  • 抗悪性腫瘍薬および分子標的薬ではブレオマイシン10.2%、ゲフィチニブ5.81%、ビノレルビン2.45%、アムルビシン2.20%、ゲムシタビン1.50%とする報告がある。個々の医薬品の投与の実数を正確に把握することは困難であるため、肺障害の発生頻度も正確に把握することが困難である。

3.副作用の判別基準
  • 胸部X線写真または胸部CTで両側のair space consolidation(肺胞性浸潤影)あるいはスリガラス影を認め、心原性肺水腫であることが否定され、動脈血酸素分圧/吸気酸素濃度(Pao2/FIo2)300mmHg 以下でALI、そのうちPao2/FIo2200mmHg 以下の場合にARDS と診断する。
    医薬品以外の原因を否定するには、薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は参考になるが、偽陽性、偽陰性があるので、結果の解釈は慎重にすべきである。
    医薬品の中止による改善、再投与による肺障害の再現が確実な診断であるが、再投与試験(チャレンジ試験)により重篤となる危険性があり禁忌である。

4.判別が必要な疾患と判別方法
  • 抗悪性腫瘍薬の場合は、悪性腫瘍の進行、特に癌性リンパ管症を判別(鑑別)する。
  • また骨髄抑制があった場合には、日和見感染症が鑑別に挙がる。膠原病などに対して免疫抑制薬が投与されている場合は、日和見感染症や、原疾患による間質性肺炎の増悪が鑑別に挙がる。これらの鑑別には、各種日和見感染症の抗原・抗体やPCR、喀痰の培養と細胞診、腫瘍マーカー、自己抗体の測定などが診断の補助になる。可能なら気管支鏡検査を施行し、気管支肺胞洗浄(BAL: bronchoalveolar lavage)と経気管支肺生検(TBLB: trans bronchial lung biopsy)を施行することが望ましいが、呼吸不全のため施行できないこともある。人工呼吸器による呼吸管理が施行された症例では、人工呼吸器を使用したままBAL を行うことも検討する。
  • 左心不全による急性肺水腫との鑑別が必要な場合もあるが、臨床徴候、心臓超音波検査、血液検査でのBNP 値が参考になる。心疾患がある症例の不整脈に対して投与されたアミオダロンによる肺障害と左心室不全との鑑別にはGaシンチが有用である

5.治療方法
  • 原因と考えられる医薬品の投与を中止することが重要である。
    ALI/ARDS にまで肺損傷が進展した症例においては、副腎皮質ステロイドの投与も必要となる。
  • メチルプレドニゾロン 1000 mg を3 日間投与(ステロイドパルス療法)し、その後プレドニゾロン 1 mg/kg を投与する。
  • 肺損傷の改善が不十分であれば、メチルプレドニゾロンのステロイドパルス療法を繰り返す。
  • ステロイド抵抗例に対しては、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬の併用も考慮するが、免疫抑制薬による薬剤性肺障害の報告がある17)ので慎重に検討する。
  • またステロイド抵抗例に対しては、PMX-F(polymyxinB-immobilized fiber) を用いた血液浄化療法 やPMMA(polymethylmethacrylate) 膜による持続的血液濾過透析(CHDF: continuoushemodiafiltration)も検討してもよいと考えられる。




【症例 1】80 歳代の男性
  • 7年前に高血圧を指摘され、降圧薬を内服中である。喫煙歴は15 本/日× 67年間。2001 年5 月頃より体重減少がみられ、9 月に胸部X線写真で左中肺野に異常陰影を指摘され、検査・加療目的で9 月に入院した。超音波下経皮的生検で肺扁平上皮癌と診断。病期分類ではcT2N1M0、stage IIB で、heavysmoker、間質性肺炎、陳旧性肺結核、腎機能低下(24hrCcr. 38)であり、治療として放射線療法を選択した。胸部照射60Gy を施行し治療効果はpartialresponse(PR)であり、退院となった。
    外来通院中に腫瘍が再増大し、2002 年8 月よりゲフィチニブの服用を開始した。しかし下痢による消化器症状が強く服用18 日目にはゲフィチニブの服用を中止していた。服用中止2 日目に朝方のトイレ歩行後に呼吸困難を自覚し、服用中止3 日目には呼吸困難が増悪し意識障害もみられ、救急車で来院し入院となった。
    入院時の検査所見は、WBC 10,800 /μL(neut 87%、 eos 1%、 lymph 10%、mono 2%)、RBC 264X104 /μL、Hb 7.6 g/dL、PLT 246X103/μL、TP 4.7 g/dL、Alb 2.7 g/dL、AST 246 IU/L、ALT 245 IU/L、LDH 1408 IU/L、BUN 47 mg/dL、Cr 1.4 mg/dL、CRP 17.2 mg/dL、動脈血液ガス分析は酸素3L の吸入下でpH7.319、Pao2 74.0 Torr、Paco2 50.0 Torr、HCO3- 25.0 mmol/L、Sao2 91.5%であり、低酸素血症を伴う多臓器障害が考えられた。また肺障害のパラメーターである血清KL-6 は、770 U/mL から1,488 U/mL へと、SP-D は362 ng/mLから705 ng/mL(いずれも7 月上旬、服用中止3 日目の採血結果)へとゲフィチニブの投与後に急激な上昇を示した。ゲフィチニブ投与前後の胸部X線写真とCT 画像を図1 と図2 に示したが、投与前は正常と考えられた肺野を含めて、投与後には両側の全肺野にびまん性のスリガラス陰影が拡がっていた。ステロイドパルス療法を施行するも、呼吸不全が進行し入院3 日目に死亡した。剖検により得られた肺の病理組織では、右上葉肺にはびまん性肺胞障害(DAD)の浸出期(図3A)、左上葉肺にはDAD の増殖期(図3B)が主にみられた。また両側下葉には蜂巣肺病変が散在していた。当症例は、肺線維症が既存にあり、ゲフィチニブによる肺障害を来したものである。病理的にはDAD が局所的にかつ経時的に発症したものと判断される。ゲフィチニブによる肺障害は、重篤な例はDAD が本態であるが、当症例のように臨床像はかならずしも典型的な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を示さず、画像的にも間質性肺炎的なものがみられることも多い。
    図1
【症例2】
  • 70 歳代の女性
    乳癌の再発肝転移および鎖骨上窩リンパ節転移に対してドセタキセル+ゲムシタビンの化学療法にG-CSF も併用され治療中であった。入院5 日前より呼吸困難を自覚していた。4 年前に乳癌で右乳房切除術を施行され、術後局所に放射線療法を施行された。手術の2 年後に肝転移および鎖骨上窩リンパ節転移が再発し、シクロホスファミド+ミトキサントロン+5-フルオロウラシル(5-FU)の化学療法を施行され部分寛解となった。5 ヶ月前に腫瘍が再度増大し、ドセタキセル 75 mg/m2, day 1+ゲムシタビン 800mg/m2, days 1 and 8 を3 週間ごとに投与する二次化学療法を開始した。2 コース目にグレード3 の好中球減少を認めたため、両薬剤の量を25%減量し、day 8 のゲムシタビンは中止し、day 5 からday 10 までG-CSF を併用し、2コース目と3 コース目を施行した。両コースとも薬剤投与1 週間後に咳嗽、軽度の胸部不快感、微熱を認めていた。入院の2 週間前に4 コース目の化学療法が施行された。入院5 日前、第4 コースの10 日目に、激しい咳嗽と呼吸困難を自覚し徐々に悪化した。
    入院時に体温37.3℃、血圧120/70 mmHg、脈拍90/分、呼吸数36/分であった。両肺野で広範に吸気時に断続性ラ音を聴取したが、頸静脈怒張や下腿の浮腫などの心不全を示唆する所見は認めなかった。鎖骨上窩リンパ節は縮小し、肝は触知しなかった。動脈血液ガスではPao2 37.4 mmHg、Paco2 37.2 mmHg、pH 7.4、HCO3- 25 mmol/L、Sao2 77%と著明な低酸素血症を認め、胸部X 線写真では両側びまん性の浸潤影を認めた。心電図は洞性頻脈で心エコーでは左室の機能は良好で、駆出率は70%、左室拡張末期径は41 mm と正常であった。
    WBC 8,000/μL、Hb 12.2 g/L、Plt 12.6×104 /μL、LDH 500 IU/L でその他の生化学検査値はほぼ正常であった。CA15-3 は60 U/mL から48 U/mL へ低下していた。喀痰の細菌、抗酸菌の塗抹および培養検査、血液培養、各種日和見感染症の血清学的検査結果は陰性であった。呼吸状態が不良のため気管支鏡検査は施行できなかった。
    薬剤によるALI/ARDS と考え、プレドニゾロン 50 mg を1 日2 回点滴し、利尿薬フロセミド20 mg を静注した。第2 病日には臨床症状が改善し、第3病日には胸部X 線写真の浸潤影が改善した。プレドニゾロンは漸減し、第13病日に動脈血液ガスでPao2 76.8 mmHg、Paco2 36.0 mmHg、pH 7.39、HCO3-23 mmol/L、Sao2 90.5%まで改善し退院した。
    図4





7.その他早期発見・早期対応に必要な事項
(1)輸血関連急性肺障害(TRALI)について
  • TRALI は、輸血中あるいは輸血後6 時間以内(多くは1〜2 時間以内)に起こる重篤な非溶血性輸血副作用である。その本態は非心原性肺水腫であり、ALI/ARDS の基礎疾患となりうる病態である。
  • 臨床症状及び検査所見では、呼吸困難、低酸素血症、胸部X 線写真上の両側肺水腫影のほか、発熱、血圧低下を伴うこともある。
  • 発症要因に関しては、輸血の血液中あるいは患者の血液中に存在する抗白血球抗体が病態に関与している可能性があり、その他製剤中の脂質の関与も示唆されている。臨床の現場でTRALI の認知度が低いことや発症が亜急性であることから、見過ごされている症例も多いと推測される。TRALI の場合には、心不全の治療に有効な利尿剤はかえって状態を悪化させることもあるため、治療に際しては、輸血の過負荷による心不全(volume overload)との鑑別は特に重要である。
    TRALI の治療に特異的なものはないが、酸素療法、人工呼吸管理を含めて早期より適切な全身管理を行う必要がある。なお、当該疾患が疑われた場合は、血漿中の抗顆粒球抗体や抗HLA 抗体の有無について検討する。

(2)
急性間質性肺炎(AIP)とALI/ARDS との鑑別
  • 原因が不明である特発性間質性肺炎(IIPs)の中に急性に発症する急性間質性肺炎21)と呼ばれる病態がある。薬剤性肺障害の中にもAIP と類似の病態を呈する場合がある。AIP は、別名、idiopathic ARDS とも呼ばれ、ALI/ARDSとの鑑別が困難な事が多いが、鑑別点として以下が挙げられる。
    1. ALI/ARDS:
      • ・ 両側胸水を認めることがある。
        ・ 胸部で水泡音を聴取する。
        ・ 気管支肺胞洗浄液(BALF)で好中球の割合が高い。
    2. AIP:
      • ・ 胸部で捻髪音を聴取する。
        ・ 比較的早期から牽引性気管支拡張像を認める。
        ・気管支肺胞洗浄液(BALF)でしばしばリンパ球の割合が高い。

(3)ALI/ARDS の疾患感受性
  • 最近、angiotensin converting enzyme (ACE)のI/D 遺伝子多型がALI/ARDSの発症・重症化に関係していると報告された。Insertion (I) 、deletion (D) アリルは、各々、ACE 活性を低下、上昇させる。ACE 活性の上昇はangiotensinII の活性を高め、肺血管の収縮やリモデリングを惹起すると考えられている。
    ARDS96 症例をICU入室の非ARDS症例、健康人などと比較検討した結果、DD 型ではARDS を発症する頻度が高く、予後が不良であった。今後もこの方面の研究の発展が望まれる。






2009年、ルイジアナ州立大学健康科学総合研究センターは、インフルエンザの合併症として死亡するケースが多い急性呼吸促迫症候群の新しい治療法を見つけた。
インターロイキン17のシグナルを遮断し、急性呼吸器疾患や他の臓器へのウイルス侵入を防ぐことができる可能性がある。

研究チームは、
炎症時に増える白血球の一種である好中球を活性化するインターロイキン17に着目。
インターロイキン17の受容体ができないようにしたマウスにインフルエンザウイルスを感染させたところ、体内にウイルス量が多くても死亡したり、急性呼吸器疾患になったりするマウスが減少することを確認。



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