DDS
=薬物送達システム
(ドラッグ・デリバリ・システム)




 らせん状
(アルファー1酸性糖タンパク質)

2009年、広島大学の松尾光一特別研究員らは、生体内のタンパク質が薬物を細胞に届ける仕組みの一端を解明した。
ホルモン輸送に関わるタンパク質で、通常はシート状構造で薬物を包み込んでいるが、細胞表面に触れるとらせん状になって薬を放出していた。
調べたのは、ステロイドホルモンの輸送に関わる「アルファー1酸性糖タンパク質」。
溶液にとかし、細胞表面にあるリン脂質が共存状態とそうでない状態で構造がどのように違うか比較した。



 注射で骨折を治す
「武田薬品工業は1999年、骨折の回復を助ける新しい化合物の臨床試験を始めた。骨の形成を促すタンパク質の働きを活発にする作用を持っており、うまくいけば治療期間を2/3に短縮出来る。

この薬の特徴は、薬そのものの作用もさることながら、その効き方にある。
患部に注射するとおよそ1ヶ月間にわたって徐々に成分を放出し、患部の薬の濃度を一定に保つ。
技術のポイントは乳酸グリコール酸共重合体と呼ぶ特殊な高分子材料だ。
武田はこの技術を前立腺ガン治療薬「リュープリン」で確立。



 24時間効果が持続する飲み薬
山之内製薬は効果が24時間持続する飲み薬の技術を開発した。

通常の薬は
  • 水分に乏しい大腸に達すると、成分が溶け出さなくなってしまう。

この問題を解決するために、吸水性の高分子材料で薬の表面を覆った。胃や小腸を通過する際に高分子が水分を吸収し、これを大腸まで運んでいく
大腸でも薬の溶出が続くため、効果が長持ちする


 多層カプセルで
胃酸から守る

腸の健康を保つビフィズス菌を特殊加工して確実に腸まで届ける・・・そんな健康食品が登場した。医薬品の世界で駆使されているドラッグ・デリバリ・システムを応用している。

腸の常在菌であるビフィズス菌は消化吸収・ビタミン合成・免疫の向上などの働きをもつ「善玉菌」で、年を取るにつれ数が少なくなる。
健康維持には、全腸内細菌の25%をビフィズス菌が占めると理想的と言われているが、一般に成人でも15%程度、80歳を越えると1%程度に低下する。補うために菌を飲んでも、胃酸によって死んでしまう。欠点があった。
森下仁丹・医薬品開発部の小崎俊雄課長は言う。「胃酸は消化を助けるだけでなく外部から体に入る菌を殺す役割もある。相手が善玉菌でも、自然の摂理に反して殺さないで腸にまで運ぼうとするには工夫がいる。
ビフィーナは3層構造をしている。最外層のゼラチンは胃酸で溶ける。その内側に胃酸に強い油層があり、ビフィズス菌を守る。腸に入ると、油層が胆汁や腸液で溶け、ビフィズス菌が活動を始める。
日新製品も同種の製品として「ビフィズスリブロン」を販売している。ビフィズス菌の常住場所が大腸であることに着目し、大腸でカプセルが壊れる方式を開発した。食物繊維キトサンの硬カプセルを、医薬品に使われている樹脂シェラックで覆った。
最外層のシェラックは胃酸では溶けず、そのまま通貨。小腸にはいると、胆汁などの消化液で溶ける。大腸では他の腸内細菌によってキトサンカプセルが壊され、内部のビフィズス菌が放出される。カプセルの厚さなど最適条件や生産工程を決めるために約10年かかったという。


 分子のり
2009年、東京大学の相田卓三教授と金原数・東北大学らのチームは、タンパク質や核酸・糖などの生体分子同士をくっつける「分子のり」を開発した。成果は米国化学会誌に発表。
開発した分子のりは、樹木のように枝分かれした高分子「デンドリマー」で、枝先に吸盤の役割をする物質をつけた。高分子の大きさは1ナノ㍍~1ナノ㍍で3~9個の吸盤がある。
吸盤は有機化合物のグアニジンからできている。
吸盤が2個の生体分子にくっついて両者を結合する。
実験では、ブタの脳細胞から抽出した直径数ナノ㍍、長さ数マイクロ㍍の管状構造体「微小菅」と分子のりを水中で混ぜた。体温で安定する微小菅は20℃で分解するが、分子のりがまわりを覆って分解しなくなった。


 リポソーム
リポソームは細胞膜のリン脂質の二重層を模した独自の特性を持つ物質。

多くの薬品、サプリメント、化粧品のデリバリー(送達)に使われてきた。
リポソームが安定すると、送達される内容物の漏れや損失が最小限になる。
コレステロールに含まれるステロールはリポソームの安定性を大きく向上させることが証明されている。このため、コレステロールはリポソームの配合に広く使われている。


 ナノ粒子
体内での流れを追跡
2010年、米ハーバード大学の津田陽主任化学研究員らはナノ㍍サイズの微粒子が体に入ったときの動きを動物実験で解明した。(ナノ=1/10億)
成果は米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジーで発表。
カドミウム・セレン、カドミウム・テルル、シリカ、ヒト血清アルブミン(HSA)、メトキシポリエチレングリコール(mPEG)、ポリスチレン・ポリアクリレート(PS-PAA)などからなる粒をそろえた
  • 粒は5~300㌨㍍大
    表面の電気的性質も違う16種類のナノ粒子を作り、ラットの両肺にいれた

ナノ粒子が出す近赤外線を目印に体内の動きを追った。
  • プラスとマイナスの性質を併せ持つ両性イオンで粒径が5ナノ㍍以下だと、2~3分で肺のリンパ節から血液を通って腎臓に届いた。たんじかんで排泄されることが分かった。
    粒径が34㌨㍍以上だと、電気的性質とは無関係に1時間経過しても血管に入らなかった。

ナノ粒子は自動車の排ガスや工場の粉塵などにも含まれる。



 自己組織化
タンパク質を丸ごと包む

2012年、東京大学の藤田誠教授と自然科学研究機構の加藤晃一教授らは、タンパク質を丸ごと包み込むカプセルを開発した、金属イオンと有機化合物を混ぜ合わせるだけで、「自己組織化」という現象が起き、タンパク質を閉じこめることができる。
タンパク質は3~10㌨㍍と比較的大きく、カプセルで丸ごと包むのは難しかった。
高温や酸などがある環境でも、タンパク質の変性を防げる



 DDSに使う微粒子
磁場かけて発熱させる

2012年、一柳優子・横浜国立大学准教授は、DDSに使う微粒子を開発した
直径2~30㌨㍍の微粒子で、主成分は酸化鉄の化合物で、表面をアモルファスのシリカで覆った。酸化鉄や塩化コバルトの水溶液に、ナトリウムとシリカの化合物の水溶液を混ぜて作った
実験では人間のガン細胞に結合する葉酸を表面につけた。微粒子を含む液体にガン細胞を浸すと、ガン細胞の内部に微粒子が入り込む様子が観察できた


 ガン組織に集中蓄積
DDSシステム開発ベンチャーの「ナノキャリア」(千葉県柏市)はガン組織に蓄積されやすいDDSを開発した。
  • 直径が㌨㍍(1/10億)サイズの中空粒子の内部に薬物を閉じ込めるもので、血管の壁をすり抜けてガン組織に入り込む性質がある。
  • 水に混ぜて投与できるなど、取り扱いも容易だという。
動物実験で確認済み。
開発したDDSは材料にポリエチレングリコールとポリアミノ酸を結合した分子を使った。ポリエチレングリコールは水となじみやすい親水性、ポリアミノ酸は油となじむ疎水性で、ポリエチレングリコール部分が外側に、ポリアミノ酸が内側に並んだミセルと呼ぶ構造になっていて、直径数10~200㌨㍍の球状をしている。そして、抗ガン剤の多くは疎水性のため、ミセルの内部に閉じこめられる

ガン組織が発達すると周囲に新しい血管(新生血管)が出来るが、粒子はこの新生血管の細胞の隙間を通過しやすい大きさをしているため、ガン組織に集中的に蓄積される

肺ガンのマウスを使った実験では通常の7倍の濃度まで抗ガン剤が蓄積された。
  • ミセルがガン組織に到達するとガン細胞の作用で壊され、中の抗ガン剤が放出される。

ミセル化することで水を混ぜて投与できるようになる。
  • 抗ガン剤のほとんどが、水に溶けないためアルコールに溶かして投与しているが、今回のDDSはこの点もクリアしている



(ミセル)とは?
  • 化合物の重合体(ポリマー)において、水と親和性が高い部分が外側に露出し、低い部分が内側に折り畳まれた粒子





 難治性ガンに有効な薬物送達システム
(難治性ガン)
  • 国立がんセンター東病院と○○は大腸や胃・肺・膵臓などに出来る難治性ガンに有効な薬物送達システムを開発。
  • 通常の抗ガン剤が届きにくい血管の少ないタイプのガンに作用する。
    直径数十㌨㍍の油や水になじむ特殊な微粒子(ミセル)に既存の抗ガン剤を入れた。新粒子は血管壁を通りやすく患部に届きやすい



飲む抗がん剤
・・・小腸まで届ける
  • 2015年、東京理科大学。
  • 薬を脂質膜でできたカプセルの「リポソーム」に封入し、海藻由来のゲルで包んで直径3㍉㍍の丸薬にする
  • このゲルは酸性の液体中では溶けないが、中性になると溶け出す。
  • そのため胃では溶けず中性の腸に到達してから溶ける


 火薬を使って薬剤を瞬時に届ける
 2019年、ダイセルは手のひらサイズの機器をつかい、火薬の燃えるエネルギーで皮膚から体内に届ける手法を開発した。
高分子の遺伝子なども届けられる。



ゲムシタビン(抗がん剤)
2018年、富士フイルムが米国で治験を始める。
既存の抗ガン剤「ゲムシタビン」を有機材でつくったカプセル状の微粒子をで作ったカプセル状の微粒子に閉じ込める。
血中に溶け出すことを防ぐことが可能になる。





ペプチド(タンパク質の断片)
iRGD

膵臓ガンで見つかったペプチド
  • 2009年、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のチームは、ガン細胞だけを見つけて内部に入り込む特殊なペプチドを突き止めた。このペプチド(iRGD)はガンの周囲を血管をすり抜けてガン細胞に到達できる。
    動物実験でこのペプチドを使うとガンの治療薬の効果が高まった


●ペプチド
は体内で主にホルモンとして働いている

  • 2011年、JITSUBOは、タンパク質を使った医薬品の効果を長持ちさせる技術を開発した。特許申請中。
    新技術は新薬候補のペプチドに、化学物質のポリエチレングリコール(PEG)を統合した独自の分子構造を加える


●ペプチドは人が体内に持つ酵素によって分解されるが、PEGがその酵素の接近をジャマする。



●ペプチド
  • タンパク質の凹みに入り込んで作用するため、分子の立体構造が変わると薬効が低下してしまう。新技術はペプチドの分子構造を維持したまま、PEGを結合させることに成功した。
  • 実験では、天然のペプチドは分解酵素を混ぜてから半減数するまでの時間はわずか1分だったが、新技術を使ったペプチドは1週間以上にのびた。
  • ペプチド医薬品は血糖値を下げるインスリンが代表。現在50種類以上のペプチド医薬品がある。





『分子シャペロン』
と呼ぶ樽型のタンパク質

東京大学の相田卓三教授と金原数講師らは、タンパク質の内部にナノメートル(ナノ=1/10億)レベルに加工した超微粒子を入れたり出したりすることに成功した。

『分子シャペロン』と呼ぶ樽型のタンパク質で確認した。
  • たるの真ん中に直径4.5ナノメートルの空間がある。
    実験で黄緑色の傾向を出す直径3ナノメートルの硫化カドミウムを取り込ませた。

    樽型タンパク質は本来、異常なタンパク質を包み込み、筋肉を動かすエネルギーとなるアデノシン三リン酸(ATP)を使って正しい構造に戻す機能がある。
  • 実験でATPを加えると、樽の構造が変わり、微粒子を放出した。
    シャペロン
  • =フランス語で若い女性が社交界にデビューするとき、世話を焼く女性を指す




ニトログリセリン
  • 祟城大学の前田浩教授(熊本大学名誉教授)らは、狭心症治療に使うニトログリセリンを、ガン病巣部に塗布することで抗ガン剤を効果的に送り込めることを発見した。
    マウス実験で、ニトログリセリンを塗布しない場合に比べ、ガン細胞に2倍の濃度で薬剤が集積した。腫瘍の大きさも塗布しない場合に比べて半分以下になった。
    成果は、2008年の日本癌学会で発表。




エラスチン
2010年、東京工業大学の木畠英理准教授は、凝集して直径が50ナノ㍍の粒子になるタンパク質を作ることに成功した。

皮膚や大動脈などを構成するタンパク質エラスチンに着目。

エラスチン
の一部であるペンタペプチドというタンパク質断片が、温度によって凝集する性質を利用した。

さらにアミノ酸の一種で水になじみやすい(親水性の)アスパラギン酸を組み込み、50ナノ㍍サイズにできた。
DDSのカプセルは
新生血管 の血管壁のすき間をすり抜けてガン細胞に到達する必要がある。


治療用遺伝子を血管から狙った細胞に運ぶ
2013年、首都大学東京の朝山章一郎准教授らは、導入する遺伝子に微細な分子を吸着させてサイズを抑え、体内組織のわずかな間隙を通り抜けられるDDSを開発した。

遺伝子治療では遺伝子でできた薬を目標の細胞以内の核まで確実に届けなければならない。

研究グループは遺伝子とくっつきやすくするために、プラスの電荷を持ち水と混ざりにくい性質がある微細な分子を作製した。

遺伝子に混ぜるだけで吸着し、30ナノ㍍ほどの集合体になった。これをマウスの皮膚に投与すると、遺伝子が狙った細胞内に移動して作用することを確認した。



ナノ粒子を効率よく細胞内に運ぶ技術
2013年、東北大学の鈴木康弘講師らは、数ナノ㍍の粒子を効率よく細胞内に運ぶ技術を開発した。ウイルスが細胞に取り込まれる働きを利用して、粒子がみずから細胞に入るようにした。

成果は米科学誌モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジーに掲載。

研究グループは「エンドサイトーシス」という現象を利用した。

細胞がウイルスを取り込む現象で、蛍光を放つ粒子を取り込ませた


作製した粒子の直径は1~20ナノ㍍。カドミウムとセレンからなる結晶で、表面にエイズウイルスが持つアミノ酸をくっつけた。細胞の表面に粒子をのせると、アミノ酸が細胞膜を刺激して凹ませ、細胞が粒子を取り込んだ。
  • 粒子は自分から細胞内に入っていく。

細胞のみ光るナノ粒子
2014年、東京工業大学の小西玄一准教授らは細胞のなかに取り込まれたと時だけ光るナノ㍍大の微粒子を開発した。
  • ナノ粒子を蛍光で観察する手法は、顕微鏡でも見えるが、補正する必要があった。

研究チームは有機系の蛍光色素「ナイルレッド」を活用した。
  • ナイルレッドは単独では光るものの、集まると光らなくなる性質を持つ。
  • 外側は水になじみ、内側は水をはじく「ミセル」と呼ぶナノ粒子の内側に蛍光色素をつけると、色素が凝集して光らなくなった。

ナノ粒子の直径は20ナノ㍍で、細胞外では光らない。
細胞内に取り込まれると「グルタチオン」と呼ぶ物質などによって分解され、凝集が壊れて光るようになるという。
  • ヒトのガン細胞を使った実験では、細胞内に取り込まれたナノ粒子だけが光る様子を観察できた。




超小型カプセルを血管内に
がん細胞は血管から栄養を搾取して成長する。

このため、がん周辺の血管には傷ついて小さな穴が開く。

片岡一則・東京大学教授が開発した超小型カプセルは、大きさ20~100ナノ㍍。外側は水に溶け安いポリエチレングリコール、内側は水に強いポリアミノ酸という二重構造で、血液にすぐには溶けない。

パクリタキセル をカプセルに入れ、血管内に点滴で注入すると、血管の穴をくぐり抜けてがん細胞にたどり着く。



タンパク質を選択的に患部に届ける
2016年、東京大学の長棟輝行教授、山口哲志講師らは、薬の成分となるタンパク質の表面に「ビオチン」という分子を結合。

これと「ストレプトアビジン」というタンパク質を混ぜると、ビオチンがノリの役目をして凝集体ができる。


ストレプトアビジンがバリアーの役割を果たし、凝集体は体内に入っても分解されにくくなる。

タンパク質を血中に投与し、患部に届いた後、患部に可視光や紫外光を当てると、ビオチンと薬のタンパク質との結合がキレ、タンパク質が薬として働くようになる。




肝臓に薬剤を届ける粒子
(肝硬変に効果)

2017年、九州大学の林幸壱助教と名古屋大学の余語利信教授らのグループ。
赤血球の形や柔らかさを真似た粒子の中に薬剤を入れることで、肺など他の臓器にたまることなく肝臓に集まる。

肝硬変を起こしたマウスに投与すると、内包した薬剤で肝臓の機能が回復した。
赤血球は肺から全身へ酸素を届ける役割をする。
肺や脾臓を通過するときに、ゴムボールのように変形して通過することが知られている。

開発した粒子は直径約2㍃㍍で、球が凹んだパラシュートのような赤血球の形状をまねした。
素材にセルロースを使うことで赤血球の柔らかさも再現した。
細い血管を通る際には変形し、通過後には形が元に戻る。
粒子を作製する際に薬剤を中にいれることができる。
肝臓の細胞に入ると、セルロースの構造が変化してすき間ができ、そこから薬剤が放出される仕組みだ。

開発した粒子の性能を調べるため、球状の粒子と形は赤血球と同じだが二酸化ケイ素(シリカ)製の硬い粒子と3種類で比較実験をした。

マウスに投与すると、
ほかの2種類は肺や脾臓にたまった。
新開発の粒子は肺を通過して肝臓だけにたまった。
投与後約1日で、ほとんどが肝臓に届くという。

薬剤で肝硬変にしたマウスに、その治療薬を入れた新開発の粒子を投与すると、肝臓の線維化している部分は1/10に減り、肝機能も回復した。


肺の奥まで届ける「経肺投与」
2017年、東京農工大学の村上義彦准教授。
大きさは5㍃㍍~10㍃㍍
肺胞投与される薬剤には、インフルエンザ治療薬がある。


関連情報 タンパク質」「分子シャペロン







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