薬剤性肺胞出血は、
- 抗凝固作用を有する薬剤もしくはフィブリン溶解作用を有する薬剤(抗凝固薬)、抗血小板薬、フィブリン溶解剤など、
- 血管内皮に過敏性反応もしくは自己免疫性反応を生ずる薬剤(抗てんかん薬)、降圧薬、抗がん薬、抗菌薬など種々の薬剤が含まれる)、
- 直接血管内皮細胞を障害する薬剤(抗がん薬、アミオダロン)などで生じるとされてい
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(1)自覚症状
- 喀血、血痰、黒色痰、咳嗽、呼吸困難などが認められる。
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(2)他覚的所見
- 呼吸困難が高度の場合は、頻呼吸、補助呼吸筋の使用をみる。聴診では所見のないことが多いが、細気管支内に血液が貯留する場合には、水泡音(coarse crackles)などが認められることもある。
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(3)検査所見
- 抗凝固療法を行っていれば、トロンボテストもしくはヘパプラスチンテストの低下、プロトロンビン時間(PT)延長を認める。
出血量が多ければ、貧血(赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットの低下)を認める。軽度の炎症反応(CRP 増加、白血球の増加など)を認めることもある。
気管支鏡検査の際に気管支肺胞洗浄(BAL)を行えれば、肺胞出血の確定診断ができる8)。生理食塩水50mL x 3 回によるスタンダードなBAL
検査を行った場合、3 回目の回収洗浄液の方がより肺胞の病態を反映するので、より赤くみえる(血液成分が増加する)のが肺胞出血の特徴である
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(4)画像検査所見
- 胸部エックス線写真および胸部 CT 写真にて、非区域性の浸潤影を認める。気管支出血の場合は、経気管支的散布影を呈するので、肺胞出血と鑑別の可能な場合もある。喀血・血痰のない患者では、画像所見のみでは判断の難しいことも多い。
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(5)病理検査所見
- 肺胞出血にて、病理組織学的検査が行われることはまれである。
肺組織が採取された場合、肺胞内に赤血球が充満している像が認められる。自己免疫性反応による肺胞出血(Goodpasture-likesyndrome、ペニシラミンで生じる)では、肺胞と毛細血管間の基底膜に免疫複合体が沈着し、腎生検標本でも認められることがある。
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(6)発生機序・・・・大きく 3 つに分けられる。
- 血液が固まりにくくなっているために生じる。
抗凝固療法もしくはフィブリン溶解療法を行っていることが多い。治療効果が過度になるか、肺血管を障害する他の要因が加わった場合、容易に肺胞出血が生じる。
- 薬に対する過敏性反応(免疫反応)が原因で血管内皮が障害される。
薬の使用後、急速(1〜2 週間程度)に発症することもあるが、使用開始から数年後に現れる場合もある。抗がん薬の中には、この発症様式をとるものもある。
- 抗がん薬のような細胞障害性薬剤によって肺の血管内皮細胞自体が障害を受けて生じるもので、薬を使用してから発症まで慢性(数週間〜数年)に経過するタイプである。
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(7)薬剤ごとの特徴
- 抗凝固薬もしくは血栓溶解薬
- アスピリン、ワルファリン、tPA、ウロキナーゼなど
十分にコントロールされている場合、喀血となることは少なく、呼吸困難、貧血、胸部浸潤影などで発見されることが多い。治療域を超えて過剰に投与されると、呼吸不全を来すようなびまん性肺胞出血となり、喀血・血痰の頻度も高くなる
- 抗がん薬
- メトトレキサート、マイトマイシン C、ブレオマイシンなど
これらの薬剤による肺胞出血は重篤である。上皮障害に毛細血管の基底膜の障害が加わり生じると考えられる。急性白血病に対する骨髄移植後の化学療法中に認められることが多く、血小板減少も関与していると考えられる
- 抗てんかん薬
- カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールなど
通常、使用後 2〜8 週間で過敏性反応として生じる。臨床所見としては、発熱、発疹、リンパ節腫大を伴うことが多い。血液検査では、好酸球増多を伴うことが多い。肺胞出血を含めた副作用が起きた場合、死亡率は10%程度となるため、すみやかに治療する必要がある
- アミオダロン(抗不整脈薬)
- アミオダロンによる肺障害は用量依存性で、長期に使用すれば肺線維症を呈しやすくなる。したがって、肺機能検査を行いながら投与される。肺胞出血も細胞障害に伴い認められる
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