薬剤性貧血

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関連情報
貧血」「溶血性貧血」「鉄欠乏性貧血」「鉄芽球性貧血」「倦怠感」「巨赤芽球貧血」「再生不良性貧血」「悪性貧血」「骨髄異形成症候群」「サラセミア」「血流が悪い」「白血病」「温式自己免疫性溶血性貧血

薬剤性貧血 (同義語)・・・
  • ・溶血性貧血、
    ・メトヘモグロビン血症、
    ・赤芽球ろう、
    ・鉄芽球性貧血、
    ・巨赤芽球性貧血
(症状)
 「顔色が悪い」
 「疲れやすい
 「だるい」
 「頭が重い」
 「どうき
 「息切れ
(副作用で貧血が起きる医薬品)

薬剤性貧血 Anemia (厚生労働省
同義語:溶血性貧血、メトヘモグロビン血症、赤芽球ろう、鉄芽球性貧血、巨赤芽球性貧血
血液中の赤血球数やヘモグロビンの濃度が減少し、体内の酸素が少なくなる「貧血」は、医薬品によって引き起こされる場合もあります。
何らかのお薬を服用していて、次のような症状がみられた場合には、放置せずに、ただちに医師・薬剤師に連絡してください。
「顔色が悪い」、「疲れやすい」、「だるい」、「頭が重い」、「どうき」、「息切れ」
1.薬剤性貧血とは?
貧血とは、血液中の赤血球数やヘモグロビンの濃度が減少し、体内の酸素が少なくなる状態のことです。ヘモグロビンは赤血球の中にあり、赤血球の赤い色を構成している部分で、肺から取り入れた酸素を体のすみずみまで運搬する役目を負っています。赤血球があっても、中身のヘモグロビンが少ないと酸素を十分に運べません。そのため、貧血の定義は赤血球数ではなく、ヘモグロビンの濃度で決まっています。世界保健機関(WHO)では、成人男性の場合ヘモグロビン濃度13g/dL 未満、成人女性の場合12g/dL 未満を貧血と定義しています。
ヘモグロビンが減ると、体内の酸素が少なくなります。また、代わりにそれを補うために心臓から多量の血液を体内に送り出すという作用も同時に出現するため、「顔色が悪い」、「疲れやすい」、「だるい」、「頭が重い」、「どうき」、「息切れ」が出現します。これらの症状の程度は、貧血の程度と、貧血が急に起きたのか、ゆっくり進行したのかによって違います。
貧血の原因は様々ですが、医薬品も原因のひとつです。頻度はあまり高くありませんが、抗生物質、解熱消炎鎮痛薬、消化性潰瘍治療薬をはじめ多くの医薬品で、副作用として貧血を起こすことがあります。
2.早期発見と早期対応のポイント
「顔色が悪い」、「疲れやすい」、「だるい」、「頭が重い」、「どうき」、「息切れ」などの症状がみられた場合で、医薬品を服用している場合には、放置せずに、ただちに医師・薬剤師に連絡してください。
医薬品による貧血は、飲み始めてから比較的すぐに起きる場合と、数ヶ月後に起きる場合があります。上記の症状が出た場合には、医療機関を受診し、貧血がないかどうかの血液検査を受けることが勧められます。このとき、服用中の医薬品、最近まで服用していた医薬品名を担当医師に伝えるため、お薬手帳を持参してください。
貧血がおきる原因は様々ですが、貧血と診断され、原因を精査した上でなお医薬品が原因と考えられる場合には、可能性の高い医薬品の服用を中止することになります。中止により、多くの場合、1〜2週間で治ります。なお、貧血が生じる可能性が非常に高い医薬品を服用する場合には、あらかじめ医師から説明を受け、定期的に血液検査を受けることが望まれます。

早期発見と早期対応のポイント
(1)早期に認められる症状
「顔色が悪い」、「易疲労感」、「倦怠感」、「頭重感」、「動悸」、「息切れ」、「意欲低下」「狭心症」などの症状
(2)副作用の好発時期
発症機序により異なる。最も発生頻度の高い、免疫学的機序による溶血性貧血の中のハプテン型の場合は、投薬後7〜10 日目に多いが、以前に感作されている場合には、数時間〜1 日で生じる。医薬品の関与により、赤血球に対する自己抗体ができて溶血する場合は、3〜6 ヶ月後に生じる頻度が高い。
赤芽球癆をきたす場合にも、数ヶ月間投与後に生じることが多い。
(3)患者側のリスク因子
赤血球の酵素であるglucose-6-phosphate dehydrogenase (G6PD)欠損症、グルタチオン系代謝の欠損症や不安定ヘモグロビン症の患者では、メトヘモグロビンをヘモグロビンに還元し維持する能力が欠損しているため、サラゾスルファピリジン、スルファメトキサゾールなどの酸化ストレスを負荷する医薬品の投与でメトヘモグロビン血症をきたし、溶血する頻度が高い。免疫学的機序による溶血を生じる医薬品では、高齢者で発生頻度が高いという報告があるが、医薬品の代謝に関わる器官の加齢に伴う変化を考慮する必要があると思われる。
(4)投薬上のリスク因子
後に述べるハプテン型溶血をきたす医薬品では、大量投与によって溶血が生じる。
ペニシリン大量投与(107 単位)時の溶血が代表的である。
(5)患者若しくは家族等が早期に認識しうる症状(医療関係者が早期に認識しうる症状)
貧血症状が出現した場合には、血液検査によって確定される。しかし、ヘモグロビンの減少が徐々に生じた場合には、自覚症状に乏しいので、貧血をきたす頻度が比較的高い医薬品を投与する場合には、貧血の自覚症状・他覚症状に注意する。
(6)早期発見に必要な検査と実施時期
自覚・他覚症状から、貧血が疑われた場合には血算、生化学検査を行うこととし、網状赤血球の測定は必ず含める。医薬品によっては、添付文書の使用上の注意の項に“投与中は定期的に血液検査を行うこと”という注意喚起がなされており、これらの医薬品の投与時は指示に従う。医薬品による可能性が高い場合には、医薬品の投与開始日、その後の投与状況と自覚症状、検査値の推移を経時的に検討し、可能性の高い医薬品を抽出する。いずれの医薬品も、貧血の副作用を生じる可能性があるということを、常に認識しておくことが重要である。

副作用の概要
医薬品による赤血球系の障害は、骨髄(造血幹細胞や赤芽球)に対する障害と、末梢血中の赤血球に対する障害とに大別される。前者は赤芽球癆、鉄芽球性貧血、巨赤芽球性貧血であり、後者はメトヘモグロビン血症や溶血性貧血である。その他、最近はエリスロポエチンの産生障害による薬剤性貧血も報告されている。個々の医薬品による貧血の発生機序に関しては、医薬品が直接障害するものと、免疫学的機序により発症するものとに分けられるが、両者が関与している場合や再現性がない場合、または不明なものもあり、その機序を明らかにすることは困難なことが多い。発生頻度に関しては、医薬品により異なるが、使用者数が不明なため正確に把握されていないものが多い。
  • 自覚症状・・・・いわゆる貧血症状である。
  • 他覚的症状
    • 顔面蒼白、眼瞼結膜貧血様、眼球結膜黄疸などの症状がみられる。
      原因不明のチアノーゼを認めた場合にはメトヘモグロビン血症を疑う必要がある。

臨床検査(画像検査を含む)
血液検査でヘモグロビンが男性13 g/dL 未満、女性12 g/dL 未満の貧血を認める。
溶血性貧血 溶血がある場合には、網状赤血球数の著しい増加が特徴である。しかし、骨髄の障害を同時に発生している場合には増加しない。血中間接ビリルビンの軽度増加、乳酸脱水素酵素(LDH)の高値、ハプトグロビンの測定感度以下への減少を認める。免疫学的機序による溶血性貧血では、直接クームステストの結果が陽性になる。メトヘモグロビン血症では、赤血球にハインツ小体を認める。
骨髄障害 平均赤血球容積(MCV)が115fl 以上の大球性貧血の場合には、血中ビタミンB12 および葉酸の測定を行う。
網状赤血球の増加を認めない場合には、骨髄障害の可能性が高いので、骨髄穿刺を行う。赤芽球癆では、赤芽球系細胞をほとんど認めず、鉄芽球性貧血では鉄染色により環状鉄芽球( ringedsideroblast)を赤芽球の15%以上に認める。核酸合成阻害剤の使用時やビタミンB12 欠乏、葉酸欠乏では巨赤芽球や巨赤芽球様細胞を認める。
その他 MCV が基準値内、かつ網状赤血球の増加を認めない正球性貧血では、血中エリスロポエチンの測定も行う。ヘモグロビンの低下に反比例してエリスロポエチンは増加するのが正常の反応である。貧血があるのもかかわらずエリスロポエチン値が基準値以内であれば、エリスロポエチンの産生に障害があると考えられる。

発生機序(医薬品ごとの特徴を含む)
溶血性貧血 患者の赤血球に先天的異常がある場合:
G6PD 欠損症などヘモグロビン還元代謝系に先天的な異常を有する患者では、メトヘモグロビンを還元しヘモグロビンにする能力に異常があるため、酸化ストレスの高い医薬品を使用した場合にメトヘモグロビン血症をきたし、溶血する。通常量で安全な医薬品でも大量使用すると溶血することがあるので注意が必要である
免疫学的機序
による溶血
ハプテン型 赤血球に結合しやすい医薬品の場合、医薬品+赤血球に対して抗体が産生され、主に脾臓で破壊される。ペニシリン、セファロスポリン6)、テトラサイクリン7)などの報告がある。大量投与で生じやすい。投与後7〜10 日で発症し、医薬品中止後数日〜2 週間で消失する。
免疫複合体型 医薬品に対して抗体ができ、医薬品+抗体が赤血球に結合し、さらに補体が結合して溶血する。血管内溶血をきたすので激しい症状が出現する。テイコプラニン、オメプラゾール、リファンピシンなどによる報告がある。赤血球に結合したセファロスポリン系薬剤に対して抗体ができ、さらに補体が結合して血管内溶血を起こしたという報告もある
自己抗体型 医薬品により、赤血球に対する自己抗体が産生され、溶血をきたす。メチルドパ(α-メチルドパ)が代表である。当該医薬品なしでも直接クームス・間接クームステストの結果が陽性になる。溶血をきたす例はクームス陽性例の一部である。
慢性リンパ性白血病の治療としてフルダラビンを使用中に自己抗体が生じ、激しい溶血を生じたという報告がある。抗菌剤のレボフロキサシンやフルオロキノロン15)でも輸血が必要な激しい溶血が報告されている。自己抗体の発症機序に関しては、赤血球の膜に障害を与え膜に対する自己抗体ができる、医薬品がサプレッサーT 細胞の機能を障害するなどの推測がなされているが明らかではない。
赤血球修飾型 医薬品が赤血球の表面を修飾し、その結果血清中の蛋白、免疫グロブリン、補体などが非特異的に赤血球に結合する。直接クームステストの結果は陽性になるが溶血はしない。
セファロスポリン投与後1〜2 日で生じる
赤芽球癆 医薬品が直接赤血球の造血を抑制する、赤芽球に対する自己抗体が産生されて生じるという報告がある17)が明らかではない。フェニトイン(ジフェニルヒダントイン)、イソニアジド、アザチオプリンなどによる頻度が高い17)。ラニチジンでは、クームス陽性であるが、赤血球産生が低下している貧血を生じたという報告がある18)。この患者血清と医薬品を同時に加え正常骨髄細胞を培養すると赤芽球前駆細胞(BFU-E)のコロニー形成が阻害された事から考察すると、免疫複合体型の機序で赤血球および赤芽球前駆細胞を溶血すると考えられる。
鉄芽球性貧血 ヘムの合成阻害により生じる。ヘム合成に必要なビタミンB6 代謝やポルフィリン代謝を阻害する医薬品により、可逆的に生じる。イソニアジド、フェナセチン、ピラジナミドなどで生じる
巨赤芽球性貧血 核酸代謝阻害により生じる。抗がん剤などの核酸代謝阻害剤以外に、葉酸代謝(フェニトイン、ST 合剤、メトトレキサート)、ビタミンB12 代謝(レボドパ)を阻害する医薬品で起きる。また胃酸の産生を阻害するH2 ブロッカーの長期投与により、ビタミンB12 吸収が阻害され巨赤芽球性貧血を生じる可能性も論じられている。
エリスロポエチン産生阻害 シスプラチンは、細胞毒性を生じない濃度で、エリスロポエチン産生を抑制し貧血を生じさせる。

医薬品ごとの特徴
ハプテン型や自己抗体型の医薬品による溶血は、一般に軽度から中等度であり、投与数日から1〜2 週間の間に徐々に発症することが多い。
医薬品の中止により、速やかに回復する。しかし大量に溶血した場合には、激しい症状が出現する。近年報告の多いリバビリン投与による溶血は約30%で生じ、投与量の減量で消失ないし軽減するが、約15%では中止が必要になる21)。自己抗体型では、溶血は医薬品の投与中止により速やかに消失するが、血中抗体は次第に減少するものの長期間存在することが多い。リパビリンによる溶血機序は、ハプテン型と自己抗体型の複合による免疫学的機序と考えられている。
免疫複合体型では、ヘモグロビン尿を伴った激しい溶血を突然発症し、悪寒、発熱、嘔吐、腰痛、腎障害、ショックなどをきたす。再投与時には、少量の医薬品の1 回投与で発症し、医薬品の投与から数分〜数時間の短時間で重症の溶血発作をきたす。第2、第3 世代のセファロスポリン系薬剤での報告が多い。
近年リコンビナントのエリスロポエチン皮下投与による赤芽球癆が報告されている。投与開始から平均9 ヶ月で発症しており、投与中止と免疫抑制剤の使用で回復している。エリスロポエチンに対する中和抗体も同時に発現している例も認める。
副作用の判別基準(判別方法)
ヘモグロビン男性13 g/dL、女性12 g/dL 未満を貧血と診断している。

判別を必要とする疾患と判別方法
溶血性貧血 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)および先天性の溶血性貧血との判別(鑑別)が必要である。
医薬品による場合には、直接クームステストの結果が陽性になるが、先天性の溶血性貧血では陰性なので鑑別できる。また、先天性溶血性貧血では脾腫を伴う頻度が高く、末梢血塗抹標本で球状や楕円赤血球など赤血球に形態変化を認めるものが多い。
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)との鑑別はなかなか困難である。ハプテン型では、医薬品処理の赤血球に対してのみ間接クームステストの結果が陽性になる。免疫複合体型では抗補体血清に対する直接クームステストが陽性であり、医薬品存在下でのみ間接クームステストの結果が陽性になるので鑑別が可能である。また、医薬品投与中止で直接クームステストの結果は短期間に陰性になる。自己抗体型では鑑別は不可能である。
いずれも、医薬品の投与中止により、溶血が消失することが、最大の鑑別点となる。医薬品の再投与は、医薬品による溶血の存在を明らかに出来るが、激しい溶血をきたすことがあり危険であるので原則として行わない。
赤芽球癆、
鉄芽球性貧血
骨髄異形成症候群(MDS)との鑑別が必要である。
医薬品中止により回復することが唯一の鑑別点である。

治療方法
溶血が出現した段階では医薬品の中止が重要である。ハプテン型や免疫複合体型では医薬品中止により速やかに溶血は消失し、貧血から回復する。ステロイドホルモンや免疫抑制剤が必要になることは非常に稀であるが、激しい自己抗体型の溶血では、これらの治療が必要であったと報告されている。

典型的症例概要
重篤な副作用として厚生労働省に報告されたものの中には、抗がん剤など、その医薬品の作用機序から見て貧血の発症が必発あるいは当然と予想できるものも少なくない。薬剤性貧血の原因となる医薬品は、いずれのタイプの貧血であれ極めて多岐にわたっているが、個々の医薬品の
使用頻度は時代により大きく変化する。したがって報告例数が多い医薬品が薬剤性貧血の原因として必ずしも重要であるとは限らない。本項では主として最近5年間の国内の報告例をもとに、日常臨床での重要な医薬品と代表的症例を提示してコメントを加える。


免疫学的機序による溶血性貧血  (厚生労働省
教科書的な従来からのベータラクタム系抗生物質に加え、近年頻用される消化性潰瘍治療薬(プロトンポンプ阻害薬オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールなど、ヒスタミンH2 受容体拮抗薬ファモチジン)、抗ウイルス薬(リバビリン、ラミブジン、リン酸オセルタミビル)やプリンアナログ抗腫瘍薬(フルダラビン、クラドリビン)、抗てんかん薬(フェニトインなど)が報告されている。
抗生物質の中でもセフォテタン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフカペンピボキシル、フロモキセフなどセファロスポリン系が目立っており、クラリスロマイシン、ミカファンギンも見られる。経口糖尿病薬アカルボースも複数例の報告がある。
【症例1】80 歳代男性。フルダラビン
約3年間の慢性リンパ性白血病の経過観察のための通院後、4 週ごとのシクロホスファミド投与を開始され、病勢をコントロールされていた。
約7年後、肝脾腫が増大し、WBC 46,700/μL と増加, Hb 10.0 g/dL、PLT 10X104/μL となって入院、クームス試験は陰性で、フルダラビン25 mg/m2 5 日間1 コースでWBC 4,600/μL と著減し、肝脾腫も軽快したため退院した。その後は無治療で経過を観察されたが、フルダラビン投与6ヶ月後に徐々に貧血が進行してHb 7.5 g/dL, WBC 15,600/μL となり、網状赤血球10.84%と増加、血清LDH 378 IU/L と上昇、総ビリルビン/間接ビリルビン 6.74/4.87 mg/dL と増加、ハプトグロビンの消失(<10 mg/dL)を認めた。クームス試験は陽性に転じ、自己免疫性溶血性貧血と診断された。リツキシマブ375 mg/m2 の1回投与により、フルダラビン投与9ヶ月後にはWBC 5,200/μL、網状赤血球 5.84%と低下したが貧血は持続し、プレドニゾロン0.5 mg/kg を開始された。その1ヶ月後にはWBC 7,800/μL、Hb 9.8 g/dL、LDH 170 IU/L と著明な改善を認めた。
(解説)慢性リンパ性白血病患者では、自己免疫性溶血性貧血の合併頻度が高いことが知られているが、本例ではフルダラビン投与と時期を同じくして発症しており、医薬品の関与が濃厚と考えられる。文献的にも複数の報告が見られるが、最近国内で同薬の関与が疑われる赤芽球癆の報告も1例見られる。
【症例2】80 歳代女性。オメプラゾール
逆流性食道炎と診断され(WBC 4,100/μL、Hb 11.6 g/dL、PLT12.6X104/μL)、オメプラゾール20 mg 投与を開始された。1ヶ月以内に動悸、息切れ、全身倦怠感が出現し、2ヶ月後にも増悪、WBC 17,300/μL、Hb 6.4 g/dL、網状赤血球32.5%、PLT 0.1X104/μL で、クームス試験陽性、血清ハプトグロビン著減(<10 mg/dL)などより、オメプラゾールにより誘発された自己免疫性溶血性貧血、血小板減少症と診断された。オメプラゾールによる患者リンパ球刺激試験は陰性であったが、溶血性貧血発症時に抗オメプラゾールIgG 抗体が認められ、病状と相関して推移した。溶血性貧血は医薬品の中止のみで軽快し、3ヶ月後にHb 9.8 g/dL、PLT 16.0X104/μL、5ヶ月後にHb 11.6 g/dL、PLT13.8X104/μL となってクームス試験も陰性化した。
(解説)
消化性潰瘍治療薬プロトンポンプ阻害薬(PPI)による血液系副作用は自己免疫性溶血性貧血、顆粒球減少症、血小板減少症と種々報告されている。本例以外にも近年ランソプラゾール25)、ラベプラゾールによる溶血性貧血の国内症例が報告されている。ファモチジンを含むヒスタミンH2受容体拮抗薬による溶血性貧血も見られるが、近年はPPI の使用頻度が急激に増加しており、留意すべきと考えられる。
【症例3】40 歳代女性。セフカペンピボキシル
38℃台の発熱が出現し、スクリーニング検査および産婦人科的精査で卵巣膿瘍と診断された。翌月初旬よりセフカペンピボキシルを投与され解熱したが、卵巣腫大が持続したため1ヶ月後に右卵巣切除術を施行された。術前検査ではクームス試験は陰性であった。術後セフメタゾール6 日間投与に続いてセフカペンピボキシルを投与したところ3 日後に39℃以上の高熱とヘモグロビン尿が出現した。抗生物質をフロモキセフに変更したが、症状は持続し、貧血の進行と腎機能障害を認めた。WBC 2,600/μL、Hb 5.2 g/dL、PLT 10.6X104/μL、網状赤血球 10.2X104/μL、クームス試験陽性、血清LDH 2,209 IU/L、AST 87 IU/L、ALT 23 IU/L、TB 1.8 mg/dL、BUN 49 mg/dL、Cr 3.8 mg/dL、ハプトグロビン著減(<6mg/dL)、検尿で尿潜血反応(3+)も沈渣上赤血球を認めずヘモグロビン尿を示唆した。
症状および所見より血管内溶血を伴った急性の溶血性貧血と診断し、原因として医薬品セフカペンピボキシル、フロモキセフを疑い、抗生物質の投与を中止、輸液、利尿剤、ハプトグロビン、副腎皮質ステロイド投与を行った。発熱、ヘモグロビン尿は2 日後に消失し、貧血、腎機能も遅れて改善、2 週間後には異常検査値はほぼ正常化し、クームス試験も陰性化した。医薬品添加による抗グロブリン試験ではフロモキセフで試験管内凝集が確認された。
(解説)
1980 年代後半から海外で10 名以上の死亡例を出した抗生物質セフォテタンによる薬剤性溶血性貧血に近い病態と考えられる。ベータラクタム系抗生物質の関与する免疫複合体型(薬剤・赤血球膜抗原・抗体3 者複合体型)機序の溶血性貧血では少量の薬剤で短期間に誘導されうる特徴を有し、しかも赤血球表面の細胞膜上の補体活性化により急激な血管内溶血を起こしうるので、本例のごとくヘモグロビン尿症、腎不全を惹起することがあるので注意を要する。

赤芽球癆
症例数は少ないが、抗てんかん薬、特にバルプロ酸ナトリウム、フェニトインの報告が見られる。アミオダロンは、赤芽球癆の原因医薬品としては初例が報告された27)。近年増えているのはエリスロポエチン投与下に慢性血液透析を受けている腎不全患者に見られる赤芽球癆で、抗エリスロポエチン(EPO)抗体が認められるものとそうでないものが報告されている28)。発症機序が明らかでない症例も多く、「薬剤性」といえるかどうか疑問であるが、注意を喚起するため、本項に記載しておく
【症例4】60 歳代男性。バルプロ酸ナトリウム
複数回の意識消失発作を起こし、てんかんと診断され、6ヶ月後よりバルプロ酸ナトリウム(VPA)の内服を開始した。開始時にはHb 13.5g/dL であった。投与開始4ヶ月後ふらつきを訴え、高度の貧血を来たして入院した。WBC 5,010/μL で分画に異常はなく、Hb 5.1 g/dL、MCV86.6fl、PLT 14.7X104/μL で網状赤血球は0.3%と著明に低下していた。血清ハプトグロビンは軽度低値を示したが、ビリルビン、LDH は正常で、クームス試験は陰性であり、溶血性貧血は否定的であった。エリスロポエチン値は3,610 mIU/mL と増加、抗ヒトパルボウイルスB19 IgM抗体は陰性、胸腺腫なし。骨髄穿刺では有核細胞数正常で造血3系統に異形成を認めないが、赤芽球の高度低形成を認めた。医薬品VPA による赤芽球癆と診断し、原因医薬品中止のみで経過を観察したが改善なく、副腎皮質ステロイド、シクロスポリン投与によって軽快した。
(解説)
赤芽球癆の原因医薬品としては50 種類以上が報告されているが、発症機序は不明であるものがほとんどである。
【症例5】60 歳代男性。エポエチン
腎性貧血(Hb 8.5 g/dL, Cr 2.5 mg/dL)と診断され、エポエチンβ6,000 単位を2 週に1 回皮下注開始。5ヶ月後にはHb 9.8 g/dL と改善したが、7ヶ月後にはHb 5.4 g/dL と低下してエポエチンβを12,000単位に増量するも反応なく、網状赤血球の著減、骨髄検査で赤芽球系細胞の著減を認めて赤芽球癆と診断された。エリスロポエチン血中濃度<1.0μ IU/mL、パルボウイルスB19 IgM 抗体陰性で、中和能を有する抗EPO 抗体陽性であった。10 ヶ月後には血液透析を導入し11 ヶ月後にはシクロスポリン投与を開始し、抗EPO 抗体価は低下したが赤芽球癆は回復しなかった。
(解説)
エポエチンα使用例がβ使用例に比して圧倒的に多いが、製剤への添加剤の種類、医薬品の保管状態、投与法、地域・個人差などが免疫原性に変化を与え、発生率に影響しているという。抗EPO抗体陰性の慢性腎不全患者に見られる赤芽球癆は増加しており、ステロイドやシクロスポリンなどの免疫抑制療法が有効な例が多いが、原因は不明である。

鉄芽球性貧血
イソニアジド、ピラジナミドなどのよく知られた古典的医薬品の報告は影をひそめ、ウィルソン病(Wilson 病)に二次選択薬として用いられる塩酸トリエンチンの報告が目を引く。投与対象疾患の希少性ゆえ、報告症例数は2 例と少ないが、臨床的には重要な知見と考えられ、両者を提示しておく。
【症例6】20 歳代男性。塩酸トリエンチン
約1年前より手指の振戦、構語障害が出現し、血清銅、セルロプラスミン低値よりWilson 病と診断された。塩酸トリエンチン投与を開始し、神経症状は徐々に改善したが、次第に全身倦怠感・易疲労感が現れて増強し、投与開始後3 ヶ月の採血でHb 7.2 g/dL、MCV 681fl、MCHC 34.7%、Fe 100 μg/dL、フェリチン785 ng/mL であり、鉄欠乏を伴わない小球性貧血であった。骨髄穿刺では鉄染色で多数の環状鉄芽球を認め、鉄芽球性貧血と診断した。塩酸トリエンチンにより生じた可能性を考慮し投与医薬品をD-ペニシラミンに変更したところ、貧血の改善を認めた。
【症例7】10 歳代女性。塩酸トリエンチン
反復性嘔吐を認め、黄疸、肝腫大を認められて翌月入院した。血清銅63 μg/dL、セルロプラスミン6.4 mg/dL、尿中銅 4,784 μg/L でKayser-Fleisher 角膜輪が見られ、Wilson 病と診断された。D-ペニシラミン、硫酸亜鉛投与を開始されたが腎機能障害が出現したため、塩酸トリエンチンに変更された。しかし黄疸、凝固能低下、血小板減少が進行し、慢性肝不全と診断されたが、同時に医薬品変更後に緩徐に進行する貧血があり、骨髄穿刺を施行したところ正〜軽度低形成骨髄に環状鉄芽球40%を認め、造血細胞の形態異常は認めなかった。塩酸トリエンチンによる鉄芽球性貧血と診断し、慢性肝不全も改善しないため入院2ヶ月後に母親をドナーとした生体肝移植を施行し塩酸トリエンチンは中止した。術後1 ヶ月で貧血、血清鉄、フェリチンは正常化した。
(解説)
塩酸トリエンチンによる鉄芽球性貧血は1990 年代に海外で2例報告があり、最近数年間で上記2 例の本邦例が報告されている。

巨赤芽球性貧血
核酸代謝拮抗作用のある抗腫瘍薬(メトトレキサートなど)、抗ウイルス薬(リバビリンなど)の報告が見られるのは当然といえる。抗てんかん薬カルバマゼピン、フェニトインによる葉酸欠乏・巨赤芽球性貧血例が見られる。
【症例8】7歳男児。カルバマゼピン
生後3 ヶ月より強直性けいれんが頻回に認められ、脳波検査でも棘波を認めた。フェノバルビタール、バルプロ酸ナトリウムが用いられたが効果が十分でなく、カルバマゼピン併用となった。併用開始1年2ヵ月後に顔色不良が出現して入院し、RBC 124X104/μL、Hb 4.3 g/dL、MCV 99fl, 血中ビタミンB12 は正常範囲、葉酸1.7 ng/mL と低下していた。骨髄での巨赤芽球の出現とあわせてカルバマゼピン投与に伴う葉酸欠乏性巨赤芽球性貧血と診断された。カルバマゼピン中止と葉酸の経口投与により貧血は回復した。
(解説)
カルバマゼピンなどの抗てんかん薬によるものは大部分が葉酸欠乏であるが、ビタミンB12 欠乏症例も1例報告された。

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