薬剤性急性腎不全

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腎不全」「急性腎不全」「慢性腎不全」「腎炎」「急性腎炎」「慢性腎炎」「人工透析」「腹膜透析」「タンパク尿」「高脂血症」「かゆい」「低カルシウム血症
急性腎不全厚生労働省
英語名:Acute renal failure
腎臓の働きが短期間に低下する「急性腎不全」は、解熱鎮痛薬、抗生物質、抗菌薬、造影剤、抗がん剤などの医薬品の使用により引き起こされる場合があります。
医薬品を使用後に、次のような症状がみられた場合には、放置せずに、ただちに医師・薬剤師に連絡してください。
「尿量が少なくなる」、
「ほとんど尿が出ない」、
「一時的に尿量が多くなる」、
「発疹」、
「むくみ」、
「体がだるい」
1.急性腎不全とは?
急性腎不全とは、いろいろな原因で腎臓の機能が短期間に低下することをいいます。腎臓の一番大きな役割は、老廃物や余分なナトリウム、塩素、カリウムなどを尿として体の外に排泄することです。
急性腎不全になると、老廃物が血液中にたまり高窒素血症という状態になり、重い場合、人工透析をしないといけない状態になります。急性腎不全になると、通常尿量が少なくなり(乏尿)、ほとんど
出なくなったりします(無尿)が、逆に一時的に増えることがあり(多尿)、尿量のみでは診断できないので、高窒素血症があることを血液検査で確認してから診断することが重要です。
慢性腎炎や糖尿病性腎症によりゆっくりと進行する慢性腎不全と異なり、急性腎不全になった場合にはその原因を除くことにより、多くの場合進行を止め、改善させることが可能です。早期発見と早
期対応が、重症化を防ぐ一番よい方法です。

2.早期発見と早期対応のポイント
原因と考えられる医薬品を服用・使用して数時間以内に発症することもありますし、数年経ってから発症することもあります。服用・使用している医薬品により、発症する時期がある程度予測できます
ので、医師・薬剤師等の説明をよく聞いてください。もともと腎臓の機能が正常でない場合(慢性腎不全)、発熱、脱水(飲水量が少ない)、食事の量の減少、複数の医薬品の服用、誤って多量服用した場合などに、急性腎不全を発症しやすくなります。
「尿量が少なくなる」、「ほとんど尿が出ない」、「一時的に尿量が多くなる」、「発疹」、「むくみ」、「体がだるい」などの症状がみられた場合で、医薬品を服用している場合には、放置せずに、ただちに
医師・薬剤師に連絡するか、医師の診察をすみやかに受けて下さい。
また、症状なく進行する場合もあるので、早期発見・早期対応のため、以下の医薬品を服用している方は、医師の勧める定期的な血液検査・尿検査を積極的に受けることが推奨されます。
・解熱鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)
・高血圧治療薬(特にアンジオテンシン変換酵素阻害薬)
・抗生物質(アミノグリコシド系抗生物質)
・抗菌薬(ニューキノロン系抗菌薬)
・造影剤(ヨード造影剤)
・抗がん剤(特にシスプラチン等の白金製剤) 等

1.急性腎不全の原因
急性腎不全は急性腎炎、出血によるショック、O157 の感染による溶血性尿毒症症候群等の多くの原因により起こります。この急性腎不全の原因の1つに医薬品があげられます。医薬品が原因となった急性腎不全を薬剤性急性腎不全といいます。体の中に入った医薬品は主として腎臓から尿中に排泄されるか肝臓から胆汁、さらには大便に排泄されます。多くの医薬品が腎臓から排泄されるため、体の他の部分より腎臓に集まることになり、腎臓に対して害を与えることが多くなります。

2.医薬品による急性腎不全の分類
1)「原因がどこにあるか」による分類:腎前性・腎性・腎後性急性腎不全はその原因がどこにあるかにより、3つの種類に分類されます。まず原因が腎臓そのものでなく、低血圧などにより腎臓に血液が十分に供給されずに腎臓の機能が低下する場合を腎前性急性腎不全といいます。次に腎臓の中の血管の閉塞や、腎臓の中の細胞が障害を受けることにより腎臓の機能が低下した場合を腎性急性腎不全といいます。また、できた尿が通る腎臓から尿道(尿を体の外に排泄するところ)までの経路にできた石などにより尿の流れがせき止められることにより尿が体外にでることができず腎臓の機能が低下した状態になる場合を腎後性腎不全といいます。

2)「どのようにして起こるか」による分類:
アレルギー性・中毒性
急性腎不全はどのようにして起こるかにより、アレルギー性と中毒性の2 種類に分類されます。アレルギー性は体質によることが多く予測が困難です。その代表が間質性腎炎で別のマニュアル「間質性腎炎」に記載されています(間質性腎炎のマニュアルをご覧ください)。どのような医薬品でも大量に体の中にたまると毒として働きます。腎臓に医薬品が毒として作用して腎臓の機能が急速に低下する場合を中毒性といいます。

3) 「腎臓のどこがやられるの?」かによる分類:
糸球体障害・尿細管間質障害
腎臓はネフロンという尿を作る小さな器官が集まってできています。1つの腎臓は約100 万個のネフロンからできています。ネフロンは血液から多量の薄い尿をこし出す糸球体という部分と薄い尿を濃縮し実際の尿を作り出す尿細管間質という部分とでできています。このどちらの部分の機能が主として障害されるかにより、糸球体性と尿細管間質性とに分類されます。
急性腎不全が起きた場合、上の3つの分類法にてあてはまるものを診断すると、原因薬剤が判断しやすく、かつその治療法が明らかとなります。例えば抗がん剤のシスプラチンによる急性腎不全は腎性・中毒性・尿細管間質障害と分類されます。
腎前性急性腎不全の原因になりうる医薬品としては高血圧治療薬と解熱鎮痛薬が代表的なものです。腎性急性腎不全の原因になりうる医薬品は種類が多く、抗生物質、抗がん剤、抗リウマチ薬、痛風治療薬、造影剤などがその代表です。腎後性急性腎不全の原因となりうる医薬品は尿酸結石形成を促す抗がん剤が代表です。


急性腎不全を起こしやすい医薬品

1) 解熱鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)
痛み止めや解熱剤により腎臓に行く血液の量が急激に落ちることにより、急性腎不全になることがあります。脱水、高齢、腎臓・心臓・肝臓などに慢性の病気などがある方ではリスクが高くなります。
解熱鎮痛薬などを服用後に「むくみ」、「尿量の減少」、「倦怠感」、「食欲不振」、「吐き気・嘔吐」などが見られた場合には、医師・薬剤師に至急連絡するか、医師の診察を速やかにうけてください。

2) 高血圧治療薬(特にアンジオテンシン変換酵素阻害薬)
アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンU受容体拮抗薬などの降圧剤は腎臓の負担を取り、慢性の腎疾患の進行を抑制する良い効果があります。しかし、服用後に血圧が急速に低下し、腎臓にいく血液の量が急激に落ちることにより急性腎不全になることがあります。「むくみ」、「尿量の減少」、「倦怠感」、「食欲不振」、「吐き気・嘔吐」などが見られた場合には、医師・薬剤師に至急連絡するか、医師の診察を速やかにうけてください。また定期的に血液検査と尿検査をする必要があります。

3) 抗生物質(アミノグリコシド系抗生物質)
感染症の治療の目的で用いられる注射の抗生物質です。腎臓(特に尿細管)に負担をかけ、腎臓の機能が低下することがあります。そのようにならぬよう、使用量・使用間隔などに十分に気をつけていますが、「むくみ」、「尿量の減少」、「倦怠感」、「食欲不振」、「吐き気・嘔吐」などが見られた場合には、医師・薬剤師に至急連絡するか、医師の診察を速やかにうけてください。また定期的に血液検査と尿検査をする必要があります。

4) 抗菌薬(ニューキノロン系抗菌薬)
感染症の治療の目的で用いられる抗菌薬です。腎臓(特に尿細管)に負担をかけ、腎臓の機能が低下することがあります。そのようにならぬよう、使用量・使用間隔などに十分に気をつけていますが、「むくみ」、「尿量の減少」、「倦怠感」、「食欲不振」、「吐き気・嘔吐」などが見られた場合には、医師・薬剤師に至急連絡するか、医師の診察を速やかにうけてください。

5) 造影剤(ヨード造影剤)
病気の診断に必要な検査に用いられる薬です。ヨードから作られています。ヨード、ヨード剤でアレルギーがある方には使用できません。過去にアレルギー反応があった方は医師に相談してください。また、この薬は全て腎臓から排泄されますので、腎臓(特に尿細管)に負担をかけ、場合により腎臓の機能を低下させる場合があります。すでに腎臓の機能が低下している場合には使用量を少なくする必要があります。副作用が出ないように、使用量などに十分に気をつけて使用します。脱水状態では副作用が出やすく、使用前後に点滴を行って十分に水分を補給します。すでに腎臓の機能がある程度低下している場合には検査後に人工透析を一時的に行う場合があります。
検査後に「むくみ」、「尿量の減少」、「倦怠感」、「食欲不振」、「吐き気・嘔吐」、「発疹」、「発熱」などが見られた場合には、医師・薬剤師に至急連絡するか、医師の診察を速やかにうけてください。また検査直後に何度も血液検査と尿検査をする必要があります。

6) 抗がん剤(特にシスプラチン等の白金製剤)
シスプラチンなどの白金製剤は抗がん剤として大変有用な薬ですが、腎臓(特に尿細管)に大きな負担をかけ、使用量が多いと腎臓の機能が急に低下する場合があります。すでに腎臓の機能が低下している場合には使用量を少なくする必要があります。副作用が出ないように、使用量、使用間隔などに十分に気をつけて使用します。脱水状態では副作用が出やすく、使用前後に点滴を行って十分に水分を補給します。
使用後に「むくみ」、「尿量の減少」、「倦怠感」、「食欲不振」、「吐き気・嘔吐」などが見られた場合には、医師・薬剤師に至急連絡するか、医師の診察を速やかにうけてください。
また定期的に血液検査と尿検査をする必要があります。
.早期発見と早期対応および予防のポイント
医薬品による急性腎不全の診断チャートを示す(図1)。薬剤性腎不全が疑われる場合には、このチャートを参考に原因医薬品を推定し、腎臓の障害部位を診断し、適切な治療を行う必要がある。本マニュアルでは、医薬品による急性腎不全を扱ったため、尿細管間質障害による急性腎不全を主体に記載している(「間質性腎炎」、「横紋筋融解症」については、それぞれのマニュアルを参
照のこと)。
急性腎不全の定義は高窒素血症を基準にして行われ、医薬品服用後1〜4 週の間に「血清クレアチニン値が1 日0.5 mg/dL、血清尿素窒素が1 日10 mg/dL以上上昇する」、「血清クレアチニン値が前値の150%以上に上昇する」、「クレアチニンクリアランスが投与前にくらべて15〜50%以上低下する」、などの基準がある。
まだ確定した定義は存在しないが、「血清クレアチニン値が前値の150%以上に上昇する」を基本と考えると簡潔である。もちろん、クレアチニン値が上昇傾向にあり、前値の150%以上に達する可能性が大きい場合も急性腎不全と考えるのが早期診断のポイントである。基本的に血清クレアチニン値で診断するので、定期的に血液検査をする必要があるが、その間隔は医薬品により異なる。造影剤使用時には使用後12 時間から24 時間以内に1 回目を、上昇傾向があればその後連日行う必要がある。アミノグリコシド系抗生物質、シスプラチンなど腎毒性の明らかな医薬品の使用時には週1 回は最低、できれば週2 回実施したい。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)などの使用開始時には2〜4 週間隔が適切と考えられる。
どの医薬品による急性腎不全でも、危険因子として、高齢・もともとの腎機能低下・脱水・発熱などがある。なかでも脱水予防は医療行為によりコントロールできる最大な因子である。NSAIDs、ACEI、ARB による腎前性急性腎不全は有効循環血液量の減少が大きな危険因子である。有効循環血液量の減少の最も多い原因が脱水である。また腎毒性の医薬品の多くが腎排泄型であり、多くが糸球体ではなく尿細管上皮細胞より排泄される。脱水があると、薬物血中濃度が上昇しやすく、また尿細管上皮に医薬品が高濃度に蓄積され、尿細管上皮細胞が障害されやすくなる。このことは、造影剤、シスプラチンによる急性腎不全の予防に使用前からの適切な水負荷が大きな役割を示すことより理解される。他の改善できない危険因子、すなわち高齢、慢性の肝腎機能低下時などは、
医薬品の使用量を抑えることが急性腎不全の予防となる。

(1)早期に認められる症状
腎臓の障害部位および発症機序等により症状は異なるが、乏尿・無尿、浮腫、倦怠感等および血液検査においてクレアチニン、尿素窒素(BUN)の上昇で示される高窒素血症が共通して見られる症状である。医療関係者は、上記症状のいずれかが認められ、その症状の持続や急激な悪化を認めた場合には早急に入院設備のある専門病院に紹介することが望ましい。

(2)副作用の好発時期
原因医薬品により異なるが、原因と考えられる医薬品を服用して数時間以内に発症することもあるし、数年経ってから発症することもある。NSAIDs、高血圧治療薬、造影剤、シスプラチン、アミノグリコシドなどによる急性腎不全は使用開始後数日以内に起こりうる。副作用なく服用していても発熱、脱水、食事摂取量の減少、複数の医薬品の服用、誤って多量服用した場合などの危険因子が途中で加わることにより発症することもある。

(3)患者側のリスク因子
高齢、基礎疾患に慢性腎不全がある、発熱、脱水、食事摂取量の減少、複数の医薬品の服用、肝不全などがあげられる。リスク因子は原因医薬品により異なるので、各論を参照されたい。

(4)推定原因医薬品
NSAIDs、高血圧治療薬(ACEI、ARB 等)、抗生物質(アミノグリコシド系等)、抗菌薬、造影剤、抗がん剤(シスプラチン等)など広範囲にわたり、その他の医薬品によっても発症しうることが報告されている。

(5) 医療関係者の対応のポイント
すべての医薬品は急性腎不全の原因となりうることに留意することが重要である。特にシスプラチン、アミノグリコシド系抗生物質、造影剤などの腎毒性が高い医薬品を使用する際には患者の症状を的確に把握し定期的に検査を行うなど十分な観察を行う必要がある。また、アミノグリコシド系抗生物質などは血中濃度のモニターが可能であり、感染症の治療と腎不全の予防の両面より有用であるから、積極的に測定すべきである。

[早期発見に必要な検査]
・ 必須定期検査:血清クレアチニン、尿素窒素、一般検尿・ 腎毒性医薬品(シスプラチン、アミノグリコシド等尿細管障害性の医薬品)使用時には尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)、尿β2-ミクログロブリン(β2-MG)、尿α1-ミクログロブリン(α1-MG)の一部あるいは複数を定期的に測定する。
・ 腎機能障害・急性腎不全が疑われた時は、「薬剤性急性腎不全の診断チャート」(図1)を参考に的確な検査をする。
以下、マニュアル中のa)からe)はチャートのa)からf)と共通である。またチャートのg)尿細管間質性腎症(間質性腎炎)は頻度も高く広範囲な医薬品が原因になりうるので別マニュアルとした。

薬剤性急性腎不全 (厚生労働省
  • 早期発見と早期対応および予防のポイント
    • 医薬品による急性腎不全の診断チャートを示す(図1)。薬剤性腎不全が疑われる場合には、このチャートを参考に原因医薬品を推定し、腎臓の障害部位を診断し、適切な治療を行う必要がある。本マニュアルでは、医薬品による急性腎不全を扱ったため、尿細管間質障害による急性腎不全を主体に記載している(「間質性腎炎」、「横紋筋融解症」については、それぞれのマニュアルを参照のこと)。
      急性腎不全の定義は高窒素血症を基準にして行われ
      • 医薬品服用後1〜4 週の間に
      • 「血清クレアチニン値が1日0.5 mg/dL、血清尿素窒素が1日10 mg/dL以上上昇する」、
      • 「血清クレアチニン値が前値の150%以上に上昇する」、
      • 「クレアチニンクリアランスが投与前にくらべて15〜50%以上低下する」、
    • などの基準がある。まだ確定した定義は存在しないが、「血清クレアチニン値が前値の150%以上に上昇する」を基本と考えると簡潔である。もちろん、クレアチニン値が上昇傾向にあり、前値の150%以上に達する可能性が大きい場合も急性腎不全と考えるのが早期診断のポイントである。
      基本的に血清クレアチニン値で診断するので、定期的に血液検査をする必要があるが、その間隔は医薬品により異なる。造影剤使用時には使用後12 時間から24 時間以内に1 回目を、上昇傾向があればその後連日行う必要がある。アミノグリコシド系抗生物質、シスプラチンなど腎毒性の明らかな医薬品の使用時には週1 回は最低、できれば週2 回実施したい。
      • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、
      • アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、
      • アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)
      などの使用開始時には2〜4 週間隔が適切と考えられる。
      どの医薬品による急性腎不全でも、危険因子として、高齢・もともとの腎機能低下・脱水・発熱などがある。なかでも脱水予防は医療行為によりコントロールできる最大な因子である。
      NSAIDs、ACEI、ARB による腎前性急性腎不全は有効循環血液量の減少が大きな危険因子である。
      有効循環血液量の減少の最も多い原因が脱水である。
      また腎毒性の医薬品の多くが腎排泄型であり、多くが糸球体ではなく尿細管上皮細胞より排泄される。脱水があると、薬物血中濃度が上昇しやすく、また尿細管上皮に医薬品が高濃度に蓄積され、尿細管上皮細胞が障害されやすくなる。このことは、造影剤、シスプラチンによる急性腎不全の予防に使用前からの適切な水負荷が大きな役割を示すことより理解される。他の改善できない危険因子、すなわち高齢、慢性の肝腎機能低下時などは、医薬品の使用量を抑えることが急性腎不全の予防となる。
    1. 早期に認められる症状
      • 腎臓の障害部位および発症機序等により症状は異なるが、乏尿・無尿、浮腫、倦怠感等および血液検査においてクレアチニン、尿素窒素(BUN)の上昇で示される高窒素血症が共通して見られる症状である。
        医療関係者は、上記症状のいずれかが認められ、その症状の持続や急激な悪化を認めた場合には早急に入院設備のある専門病院に紹介することが望ましい。
    2. 副作用の好発時期
      • 原因医薬品により異なるが、原因と考えられる医薬品を服用して数時間以内に発症することもあるし、数年経ってから発症することもある。
        NSAIDs、高血圧治療薬、造影剤、シスプラチン、アミノグリコシドなどによる急性腎不全は使用開始後数日以内に起こりうる。副作用なく服用していても発熱、脱水、食事摂取量の減少、複数の医薬品の服用、誤って多量服用した場合などの危険因子が途中で加わることにより発症することもある。
    3. 患者側のリスク因子
      • 高齢、基礎疾患に慢性腎不全がある、発熱、脱水、食事摂取量の減少、複数の医薬品の服用、肝不全などがあげられる。リスク因子は原因医薬品により異なるので、各論を参照されたい。
    4. 推定原因医薬品
      • NSAIDs、高血圧治療薬(ACEI、ARB 等)、抗生物質(アミノグリコシド系等)、抗菌薬、造影剤、抗がん剤(シスプラチン等)など広範囲にわたり、その他の医薬品によっても発症しうることが報告されている。
    5. 医療関係者の対応のポイント
      • すべての医薬品は急性腎不全の原因となりうることに留意することが重要である。特にシスプラチン、アミノグリコシド系抗生物質、造影剤などの腎毒性が高い医薬品を使用する際には患者の症状を的確に把握し定期的に検査を行うなど十分な観察を行う必要がある。また、アミノグリコシド系抗生物質などは血中濃度のモニターが可能であり、感染症の治療と腎不全の予防の両面より有用であるから、積極的に測定すべきである。
      • [早期発見に必要な検査]
        ・ 必須定期検査:血清クレアチニン、尿素窒素、一般検尿
        ・ 腎毒性医薬品(シスプラチン、アミノグリコシド等尿細管障害性の医薬品)使用時には尿中N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)、尿β2-ミクログロブリン(β2-MG)、尿α1-ミクログロブリン(α1-MG)の一部あるいは複数を定期的に測定する。
        ・ 腎機能障害・急性腎不全が疑われた時は、「薬剤性急性腎不全の診断チャート」(図1)を参考に的確な検査をする。
        以下、マニュアル中のa)からe)はチャートのa)からf)と共通である。またチャートのg)尿細管間質性腎症(間質性腎炎)は頻度も高く広範囲な医薬品が原因になりうるので別マニュアルとした。

図1 薬剤性急性腎不全の診断チャート(薬剤性を疑ったら)
乏尿・無尿
高窒素血症
問診:既往歴、現病歴
乏尿・無尿 脱水・発熱・発疹等の有無
最近の詳細な服薬歴、毒物暴露の有無
【最低限の迅速検査】
生化学(肝・腎機能、CK、電解質)、血糖
検尿(尿蛋白、潜血、沈渣、比重、浸透圧、電解質、NAG、β2MG、α1-MG
血算、末梢血液像、CRP、補体、蛋白分画、動脈血ガス分析
胸部レントゲン写真
腹部超音波検査
尿閉なら 腎後性腎不全
抗癌剤による腫瘍崩壊症候群
その他結晶形成性薬剤

検尿所見少ない BUN/Cre > 20
尿浸透圧 500mOsm/kgH20
他に高比重、FENa1%以下等
脱水・血圧低下等の臨床所見
腎前性腎不全
該当医薬品 NSAIDs・ACEI・ARB

検尿所見多い
(蛋白+〜 潜血+〜等)
BUN/Cre = 10〜20
FENa1%以上
腎性腎不全

A. 糸球体病変(@〜Bは主として腎生検所見+特殊検査所見より診断)
@ 急速進行性糸球体腎炎
@)抗GBM抗体陽性:抗糸球体基底膜(GBM)抗体腎炎
該当医薬品 現時点ではなし
A)免疫複合体陽性(腎組織免疫染色)
急性糸球体腎炎:感染歴、ASO, ASK↑、低補体
ループス腎炎:抗核抗体、低補体、
白血球減少、血小板減少
該当医薬品:D-ペニシラミン、ブシラミン
B)蛍光抗体法陰性(腎組織免疫染色)
MPO-ANCA 関連腎炎
該当医薬品:プロピルチオウラシル、アロプリノール、D-ペニシラミン
A 特殊 溶血性尿毒症症候群
:進行性貧血、
血小板減少、破砕赤血球
該当医薬品:シクロスポリン、マイトマイシンC、ペ
ニシリン(AB-PC)
B. 尿細管・間質病変
@ 急性尿細管壊死:腎前性腎不全の該当薬剤
A 尿細管毒性物質
尿中NAG,β2-MG,α1-MG 上昇
該当医薬品:シスプラチンc)、アミノグリコシド系抗
生物質d)、ニューキノロン系抗菌薬e)、造影剤f)
B 薬剤性尿細管間質性腎炎(アレルギー性)
発疹・発熱・好酸球増加
尿沈渣異常(白血球尿・好酸球尿)
尿中NAG,β2-MG,α1-MG 上昇
該当医薬品:抗生物質、H2 ブロッカー等多数
C 特殊
横紋筋融解症:  
CK, AST, ALT, LDH 上昇
赤血球の少ない尿潜血陽性
血中・尿中ミオグロビン
該当医薬品:
     @)低K 血症をきたす医薬品・・・甘草等漢方薬、利尿剤等
     A)悪性高熱をきたす医薬品
     B)悪性症候群をきたす医薬品
     C)スタチン系薬剤
高カルシウム血症:   
血清Ca 上昇
該当医薬品:活性型ビタミンD 製剤

腎前性腎不全 (厚生労働省)
a) 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)による急性腎不全
b) アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)による急性腎不全
1. NSAIDs、ACEI 等による急性腎不全の概要
(臨床症状)
(1)自覚症状
初期には症状が少ないが、進行すると食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少、倦怠感、発熱、全身の紅潮、乏尿、浮腫、手足のむくみ、目が腫れぼったいなどの症状が出現する。
(2)他覚症状
進行すると、乏尿(1 日尿量400 mL 以下)あるいは無尿(1 日尿量100 mL以下)、高K血症、代謝性アシドーシス、体液過剰(肺うっ血、胸水、腹水、浮腫)、循環器症状(不整脈、うっ血性心不全、高血圧)、消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、消化管出血)、神経症状(意識障害や痙攣)など。
(3)臨床検査値
血清クレアチニン値の上昇により急性腎不全の存在が確認できる。
急性腎不全に遭遇した場合、尿電解質と尿一般検査を行うことが重要である。
1. 尿検査
Na 排泄分画fractional excretion of sodium(FENa)およびrenal failureindex(RFI)は、腎前性腎不全と腎性腎不全(急性尿細管壊死)の鑑別に有用である[FENa=(尿中Na(mEq/L)×血清クレアチニン(mg/dL) / 血清Na(mEq/L)×尿中クレアチニン(mg/dL))×100, RFI=尿中Na(mEq/L)×尿中クレアチニン(mg/dL) / 血清クレアチニン(mg/dL)]。腎性腎不全では尿細管障害によりNaの再吸収能が低下するため、尿中のNa 濃度が上昇しFENa やRFI が腎前性に比べ高値となる。
尿中のK 濃度は、腎前性では高度の腎血流量の低下に伴うレニン・アルドステロン系の亢進のため上昇する。
尿一般検査での血尿、蛋白尿、円柱尿は糸球体性の急性腎不全を疑わせる所見であり、赤血球変形率の高い血尿は糸球体由来の可能性が高い。尿中の白血球数の増加や白血球円柱、尿中好酸球の存在は、尿細管・間質性腎炎(主として薬剤性)の存在を疑わせる。尿中のα1-・β2 ミクログロブリンやN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)は、尿細管・間質障害の程度を評価するのに有用である。
2. 血液検査
乏尿期の特徴的所見は、@高窒素血症、A低Na 血症、B高K 血症、C代謝性アシドーシス、D高尿酸血症である。
腎前性の場合、尿細管での尿素窒素の再吸収が増加するため血清UN(SUN)/Cr 比は20 以上となる。
(4)画像診断所見
超音波検査:
尿排泄障害の有無(腎盂・尿管の拡大)や腎の形状・大きさから慢性腎不全との鑑別が可能である。循環血漿量の低下による腎前性を疑う場合、下大静脈径の測定が有用である。
(5)病理組織所見
腎毒性の急性腎不全に比べ、虚血性の急性腎不全では壊死の部位が狭く散在性で、近位尿細管直部(proximal straight tubule; PST)に集中する傾向があるが、まれに曲部(proximal convoluted tubule; PCT)や遠位尿細管にも起こりうる。壊死に陥った尿細管の部位は破綻しtubulorrhexis と称されるが、同時に間質の浮腫や炎症細胞の浸潤を伴うことがある。
(6)発生機序
1. 虚血性機序−1:
  • NSAIDs はアラキドン酸代謝経路において、シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することによりプロスタグランジン(PG)産生を抑制する。PGE2 やPGI2などによる腎血管拡張系が低下し、アンジオテンシンUやノルエピネフリンなどの腎血管収縮系が優位になることにより腎動脈が収縮し腎血流を減少させると考えられている(腎前性急性腎不全)。重症例においては腎組織に虚血性の変化を引き起こす。
○原因医薬品:
代表的な医薬品 ジクロフェナクナトリウム
その他起こしうる医薬品 ロキソプロフェンナトリウム、インドメタシン、スルピリン、メフェナム酸など
2. 虚血性機序−2:
  • ACE 阻害薬はアンジオテンシンUの産生を抑制することで輸出細動脈の収縮を抑制し、降圧効果を得る。また、糸球体内圧を下げ尿中アルブミンを減少させると考えられている。腎動脈狭窄や脱水で腎血流量が低下している患者や血清クレアチニンが高い患者に通常量のACE 阻害薬を投与すると、急激に輸出細動脈の収縮が抑制されるため、腎虚血による腎機能低下を起こすと考えられている。重症例においては腎組織に虚血性の変化を起こす。
○原因医薬品:
代表的な医薬品 マレイン酸エナラプリル
その他起こしうる医薬品 リシノプリル、カプトプリル、塩酸イミダプリル、シラザプリル、ペリンドプリルエルブミン、塩酸テモカプリル、トランドプリル、塩酸ベナゼプリルなど
3. 中毒性機序:
  • NSAIDs、ACE 阻害薬いずれも稀であるが、薬物が腎細胞に直接作用して用量依存性に細胞機能を障害する場合もある。
    予後:一般に投薬中止により3〜6 週で腎機能は回復する。発見が遅れた場合や腎機能低下が高度な場合には、腎機能が完全に回復しないことがある。
    3 週以上腎不全状態が続く場合には、予後不良であることが多い。
2. 副作用の判定基準
医薬品服用後1〜4 週の間に血清クレアチニン値が1 日0.5 mg/dL、血清尿素窒素が1 日10 mg/dL 以上上昇するか、血清クレアチニン値が前値の150%以上に上昇する場合。
確定診断:腎生検被疑薬確定法:有り リンパ球刺激試験(DLST)(アレルギー性の場合)
3. 判別が必要な疾患と判別方法
1.体液の減少
下痢、嘔吐、出血、火傷、利尿薬の過剰投与
2.有効循環血漿量の減少
肝硬変、ネフローゼ症候群、膵炎
3.心拍出量の減少
心筋梗塞、心筋症、心タンポナーデ、不整脈
4.末梢血管拡張
敗血症、アナフィラキシー
5.腎血管収縮
肝腎症候群
上記を血液検査、画像診断(X 線・超音波検査など)を用いて除外する。
また上記疾患はNSAIDs、ACE 阻害薬による急性腎不全の危険因子でもあり、上記疾患を有する患者にはNSAIDs、ACE 阻害薬の使用を避けるか慎重に使用する。
4. 治療法
予防法
高齢、循環血漿量低下などのリスク因子のある症例に対しては、慎重に投与する。投与せざるを得ない時は、脱水状態を作らないようにする。
NSAIDs はクレアチニンクリアランス(Ccr) 60 mL/分以上では常用量投与可能であるが、副作用出現時は直ちに投与中止する。Ccr 60 mL/分未満に対しては投与量を減らすか、投与間隔を延ばすなど慎重に投与する。
ACE 阻害薬はクレアチニンクリアランス(Ccr)30 mL/分以下、または血清クレアチニンが3 r/dL 以上の場合には、投与量を減らすか、投与間隔を延ばすなど慎重に投与する。
2 週から1 ヶ月に1 回程度の血液検査と尿検査を行う。
治療法
1.原因医薬品の投与中止
2.水電解質代謝の維持
カリウム制限食、食塩制限食、水分制限など。アシドーシスの補正。
3.栄養管理:高カロリー(2000 kcal/日)を目標とし、低蛋白食(40 g/日以下)・減塩食(5 g/日以下)、カリウム制限を基本とする。
4.透析療法
上記療法でも状態が進行するときは、透析療法を考慮する。

尿細管上皮細胞障害性医薬品による急性腎不全(厚生労働省)
c) シスプラチン等の白金製剤
d) アミノグリコシド系抗生物質
e) ニューキノロン系抗菌薬
f) ヨード造影剤
1.尿細管上皮細胞障害性医薬品による急性腎不全の概要
(臨床症状)
  • (1)自覚症状
    • 初期には、自覚症状には乏しいのが一般的で尿量も変わらないことが多い(非乏尿性腎不全)。尿細管障害の程度が著しい場合には、尿量が減少し、頭痛、悪心、嘔吐、食欲不振、倦怠感などの尿毒症症状が出現する。稀に尿細管障害により、多尿を伴い、尿中への電解質喪失による電解質異常、アミノ酸尿などを呈することがある。また中毒性でなくアレルギー性機序により発症した場合には発熱、発疹、関節痛などの症状が見られる(間質性腎炎のマニュアルを参照)
  • (2)他覚症状
    • 進行すると、尿量減少、乏尿(一日尿量400 mL 以下)(非乏尿性も多い)、無尿(一日尿量100 mL 以下)、高K 血症、代謝性アシドーシス、体液過剰(肺うっ血、胸水、腹水、浮腫)、循環器症状(不整脈、うっ血性心不全、高血圧)、消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、消化管出血)、神経症状(意識障害や痙攣)、血尿、体重変動などが見られる。
  • (3)臨床検査値
    • 血清クレアチニン値の上昇により急性腎不全の存在が確認できる。
      急性腎不全に遭遇した場合、尿電解質と尿一般検査を行うことが重要である。
      • @ 尿検査
        Na 排泄分画fractional excretion of sodium(FENa) およびrenalfailure index(RFI)は、腎前性腎不全と腎性腎不全(急性尿細管壊死)の鑑別に有用である[FENa=(尿中Na(mEq/L)×血清クレアチニン(mg/dL) / 血清Na(mEq/L)×尿中クレアチニン(mg/dL))×100, RFI=尿中Na(mEq/L)×尿中クレアチニン(mg/dL) / 血清クレアチニン(mg/dL)]。腎性腎不全では尿細管障害によりNa の再吸収能が低下するため、尿中のNa 濃度が上昇しFENa やRFI が腎前性に比べ高値となる。
        尿一般検査では血尿、強い蛋白尿は認めない場合が多い。尿中の白血球数の増加や白血球円柱、尿中好酸球の存在は、アレルギー性の間質性腎炎(主として薬剤性)の存在を疑わせる。中毒性の尿細管上皮細胞障害性医薬品による急性腎不全の場合には白血球数の増加や白血球円柱は一般には認めない。尿中のα1-・β2-ミクログロブリンやN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)は、尿細管・間質障害の程度を評価するのに有用である。
      • A 血液検査
        乏尿期の特徴的所見は、@高窒素血症、A低Na 血症、B高K 血症、C代謝性アシドーシス、D高尿酸血症である。
        尿細管上皮細胞障害性医薬品による急性腎不全の場合、血清UN(SUN)/Cr比は20 以下となる場合が多い。
    • [早期発見に必要な検査]
      血液検査 血清クレアチニン、尿酸、尿素窒素、血清シスタチンC、Na,K,Cl などの電解質検査、血中薬物濃度(トラフ値、ピーク値)
      尿検査 一般定性検査、尿沈渣、尿中電解質、尿中β2-ミクログロブリン、α1-ミクログロブリン、ライソザイム、NAG、クレアチニンクリアランス
      腎生検 (可能なら)
  • (4)画像検査所見
    • 特徴的な画像所見はないが、慢性腎不全、あるいは腎後性腎不全との鑑別のために腹部超音波検査、腹部単純CT 検査などが有意義である。アレルギー性間質性腎炎と鑑別する補助診断としては67Ga シンチグラムが有用である。腎臓に集積を認める場合はアレルギー性間質性腎炎の大きな診断根拠となる。造影剤を使用する検査は腎障害を増悪させる可能性があり、診断的意義も低い。腎機能低下が高度で、尿毒症の合併が疑われる場合には、胸部X線にて、うっ血性心不全などの心肺病変を確認することが必要となる。
  • (5)病理組織所見
    • 尿細管上皮細胞障害性医薬品の使用歴、臨床症状から腎不全の発生機序が推測可能であり、全身状態等を勘案し通常腎生検は実施されない場合が多い。
      実施される場合は、腎障害が遷延する場合、副腎皮質ステロイド剤が治療の適応となるアレルギー性の間質腎炎との鑑別を要する場合などである。
      各医薬品による病理所見を以下に示す。
      • @ シスプラチン
        近位尿細管の直部(S3 部位)中心に尿細管上皮細胞障害が認められる。
        散在性に障害された近位尿細管上皮の核が大型化し、異型(bizzare)な形態を呈する、シスプラチン腎症特異的といってよい
      • A アミノグリコシド
        発症から生検までの時期により異なるが、腎生検では、尿細管上皮に対する直接障害と虚血性変化に対する障害がみられる。障害の程度は薬物量によって異なるが、1)尿細管障害の膨化、2)近位尿細管の刷子縁・基底陥入の消失、頂側の水泡形成、3)上皮細胞の封入体(巨大ミトコンドリアを含む)4)広範な尿細管壊死、5)脱落細胞による壊死組織片と円柱による閉塞、6)尿細管腔の拡張、7)尿管腔への穿破などがみられる。炎症性細胞浸潤は乏しいのが一般的である。電顕ではミエリン小体といわれる電子密度の高い同心円状の膜用構造物がライソゾーム内にみられ、特徴的所見とされる。長期化した薬剤性腎障害では、間質の線維化が目立つようになる。
      • B ニューキノロン系抗菌薬
        間質性腎炎の形をとるものが多い。間質は斑状あるいはびまん性の浮腫と炎症細胞の浸潤を認める。炎症細胞は単核球優位である。しばしば好酸球の浸潤が塊状にみられる。慢性となると線維化を伴った変化がみられる。尿細管は刷子縁の消失や水胞形成をみとめ上皮は脱落する。尿細管上皮にも単核球を主体とした炎症細胞浸潤が認められる。糸球体は基本的には障害されない
      • C 造影剤
        腎生検が行われた報告がほとんどなく、行われていても腎障害が遷延しているものがほとんどである。尿細管上皮細胞の空胞変性、刷子縁の消失、ライソゾーム顆粒の増加、細胞の扁平化、尿細管基底膜からの剥離などを呈する。
2.判別が必要な疾患と判別方法
  • 腎前性急性腎不全
    •  (体液量の減少、心拍出量の低下、末梢血管拡張)、
  • 腎性急性腎不全
    • (糸球体障害、腎動脈障害、急性尿細管壊死、間質障害、尿細管閉塞)、
  • 腎後性腎不全
    • (尿路系、周囲からの圧排)
を来たす原因となるすべての急性腎不全の鑑別を行うには、臨床経過、身体所見、尿、血液、血液ガス分析、腹部エコーなどの画像検査などが有用である。また腎前性と腎性の鑑別には尿浸透圧、尿Na 濃度、FENa、FEUA、腹部エコー下大静脈径などが役に立つ。
3.原因医薬品別の発症機序、予防・治療・予後
  • (1)シスプラチン
    • 推定原因医薬品:
         シスプラチン等の白金製剤
         シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン
    • 発症機序:
      • シスプラチンによる腎障害は急性腎不全、慢性腎不全、低マグネシウム血症、および多尿という形で臨床的には発現する。薬物動態をみるとシスプラチンの生体内よりの排泄は主として腎臓より排泄される。投与後24 時間以内に約20%が尿中に排泄されるが、血中濃度は2 相性でβ相半減期は100 時間と長い。腎臓におけるシスプラチン濃度は血中および他組織の濃度に比較して数倍あり、その多くは皮質に存在する。さらに、近位尿細管のS3 部位により多く存在し、同部位の尿細管上皮細胞が最も障害を受けやすい。細胞障害は同剤がDNA に直接結合してその変性を促すことが主たる原因と考えられるが、同時にミトコンドリアに作用してラジカル産生を促し間接的にDNA を損傷させるという機序も無視できない。ラットの実験にて、シスプラチン1 回投与による急性腎不全を惹起させると、3 日目よりGFR が低下し、それと同時に尿量が増加すると供に腎臓内のDNA 合成が著しく増加する現象が見られる。S3 部の尿細管を中心に再生による細胞増殖が惹起されることによると考えられるが、この増殖の際に細胞より出される各種サイトカインや増殖因子が血管平滑筋や他の尿細管上皮細胞等に作用し腎血管抵抗を増加、GFR の低下、水・電解質(特にマグネシウム)の再吸収障害などを導くことが推測される。また、同時に慢性炎症を惹起することも考えられる。
    • 予防・治療・予後等:
      • 予防が最も大切である。現在、最も現実的な予防法は生理食塩水を中心とした水負荷である。投与12 時間前より投与終了後24 時間までの間、最低1.5 mL/kg/hr の生食を点滴し、必要に応じてフロセミド、マンニトールなどの利尿剤を使用する。水負荷は経過によっては数日間行う。もちろん、脱水状態の患者には決して投与しないこと。また、忘れてならないことは腎毒性の強いアミノグリコシド等抗生物質やNSAIDs などの併用は極力避けることである。元々、腎機能が低下している患者には、カルボプラチンを始め他の抗癌剤の使用を考慮すべきであるが、使用する場合には腎機能に合わせた投与量を設定すべきである。また生食ではなく、高浸透圧性の食塩水の点滴も考慮する必要がある。投与中および投与後は心機能、体重、水の出納等を十分に観察し、嘔吐があった場合には輸液量を増加させる必要がある。血清クレアチニン、電解質を測定しクレアチニンが投与前より20%以上上昇した場合には輸液を持続しより頻繁にかつ精密に腎機能の測定を行う。以上の予防的処置にもかかわらず腎不全をきたした場合には、低蛋白・高カロリー食、血圧の管理、高尿酸血症の改善、脱水の予防、日常生活の指導など一般の保存期慢性腎不全の治療に準じた治療を行う。血清クレアチニン上昇が2 mg/dL 前後でおさえられると予後は比較的良い。
    (2)アミノグリコシド系抗生物質
    • 推定原因医薬品:
      • 硫酸ゲンタマイシン、硫酸ジベカシン、硫酸ストレプトマイシン、トブラマイシン、硫酸アルベカシン、硫酸アミカシン、硫酸イセパマイシン、硫酸ネチルマイシン、硫酸ベカナマイシン、硫酸ミクロマイシン、硫酸アストロマイシン等
    • 発症機序:
      • アミノグリコシドは水溶性のため組織移行性は不良であるが、例外的に皮質内濃度は血清濃度の10〜20 倍に達する。尿中に排泄されたアミノグリコシドは、メガリンという受容体を介してエンドサイトーシスにより近位尿細管細胞内に取り込まれ、最終的に細胞内のライソゾームに蓄積され、ライソゾームの障害から水解酵素の放出を惹起し、その結果細胞は壊死に陥り、崩壊して、病理組織学的に尿細管壊死の像を呈する。より早期にはNa-K-ATPase 活性の阻害、Na 依存性グルコース再吸収の阻止、およびADHによるアデニル酸シクラーゼ刺激作用の阻止等により、Fanconi 症候群に近似する尿細管障害、腎性K、Mg喪失、が見られることもある。尿細管障害により再吸収能が低下しているため、乏尿になることが少ない、と考えられている。
        まれに、アレルギー性の間質性腎炎の形を取ることもある。
    • 予防・治療・予後等:
      • 発症早期には症状がないことが多く、身体症候から診断することは困難であるから、可能なかぎり腎障害の発症を防ぐ治療計画を立てることが必要である。アミノグリコシドの腎への蓄積を防ぐには、1)漫然と長期投与をしない(アミカシンなら2 週間以内)、2)少量頻回投与よりも1日1回投与を行う、3)もともと腎機能が低下している場合にはさらに投与量を減ずるか、投与間隔をあけて使用する、4)血中濃度、特にトラフレベルを測定し、これが一定以上を超えないようにする、などの点に注意することが必要である。血中濃度は、単回測定なら投与3日目のトラフ値、ピーク値の測定が推奨されるが、週2回測定すると腎障害の早期発見に有用であるという報告がある。また、下記薬剤併用時には、腎機能障害の頻度が高くなる危険性があるので特に注意が必要である。
      • @血液代用剤(デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン等)
      • Aループ利尿剤(エタクリン酸、フロセミド、アゾセミド等)
      • Bバンコマイシン、アムホテリシンB 等の抗生物質
      • C白金含有抗悪性腫瘍剤(シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン)等、
      • Cその他、シクロスポリン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、ステロイド系抗炎症剤など。投与開始直後から血液・尿検査を実施して、明らかな腎障害が確認されるか、薬剤のトラフレベルが上限の2倍を超えたら、薬剤投与を中止する。中止後2週間以内にクレアチニンレベルの改善が見られるのが一般的であるが、腎機能低下がさらに進行する場合、あるいは発見時すでに高度の腎機能障害が認められる場合には、血液透析の必要性も考え、腎臓専門医にコンサルトし、自院内に透析施設がない場合には適切な施設に紹介することも考慮する。
    • 医薬品ごとの特徴
      • ラットによる動物実験の結果では腎毒性の強さはネオマシン>ゲンタマイシン>シソマイシン、アミカシン、カナマイシン>トブラマイシン、アルベカシン、ジベカシン>ネチルマイシン>ストレプトマイシンと報告されており、ミクロマイシン、イセパマイシン、アストロマイシンの腎毒性もトブラマイシンより低いと考えられている。臨床的に薬剤間の差について検討した報告の中には、ゲンタマイシンは14%、トブラマイシンは12.9%、ネチルマイシンは8.7%、アミカシンは9.4%と薬剤間で差があったとする報告もみられるが、薬剤の使用量の問題もあり、腎毒性に関する個々の薬剤間の差について正確に論ずるのは難しいとする報告もある。
    • 副作用発現頻度
      • 腎障害の基準が報告により一定せず、また医薬品による差もあるため、報告された発症頻度は数%から50%以上まで報告はさまざまであるが、Prospevetive でrandamized された報告では5〜10%というのが一般的である。腎障害の年間発生率は不明であるが、2216 人の入院患者のうち、血清クレアチニンが0.5 mg/dL 以上の上昇をみたのは4.95%で、アミノグリコシドによるものはそのうち7 症例だったとする報告がある。
        薬物血中濃度
        薬物名 有効治療濃度
        µg/ml
        最大ピーク時
        µg/ml
        最大トラフ値
        µg/ml
        アミカシン 15-25 35 5
        アルベカシン 9-12 12 2
        イセパマイシン 20-40 30 5
        カナマイシン 15-30 30-35 5
        ゲンタマイシン 6-10 10 2
        ジベカシン 6-10 12 2
        ストレプトマシン 20-30 20-25 3-5
        トブラマイシン 4-10 10 2
        ネチルマイシン 6-12 18 2
    • 医薬品ごとの特徴:
      ラットによる動物実験の結果では腎毒性の強さはネオマシン>ゲンタマイシン>シソマイシン、アミカシン、カナマイシン>トブラマイシン、アルベカシン、ジベカシン>ネチルマイシン>ストレプトマイシンと報告されており、ミクロマイシン、イセパマイシン、アストロマイシンの腎毒性もトブラマイシンより低いと考えられている。臨床的に薬剤間の差について検討した報告の中には、ゲンタマイシンは14%、トブラマイシンは12.9%、ネチルマイシンは8.7%、アミカシンは9.4%と薬剤間で差があったとする報告もみられるが、薬剤の使用量の問題もあり、腎毒性に関する個々の薬剤間の差について正確に論ずるのは難しいとする報告もある。
      副作用発現頻度:
      腎障害の基準が報告により一定せず、また医薬品による差もあるため、報告された発症頻度は数%から50%以上まで報告はさまざまであるが、Prospevetive でrandamized された報告では5〜10%というのが一般的である。腎障害の年間発生率は不明であるが、2216 人の入院患者のうち、血清クレアチニンが0.5 mg/dL 以上の上昇をみたのは4.95%で、アミノグリコシドによるものはそのうち7 症例だったとする報告がある。
      典型的症例概要:
      60 歳代、男性 (被疑薬)アミノグリコシド
      ネフローゼ症候群(膜性腎症)にて外来通院治療中。少量ステロイド治療(プレドニゾロン10 mg)投与を受けていた。蛋白尿は0.3〜0.5 g/日程度で安定したが、クレアチニンは軽度上昇(1.4 mg/dL)していた。発熱、咳嗽が出現。胸部X線上、急性肺炎と診断され、入院。セフェム系抗生剤が投与され、一度は解熱し、胸部X線上も改善がみられたが、入院後2 週後から再び発熱し、胸部X線上も新たな肺炎像が出現。喀痰培養の結果MRSA が検出され、MRSA 肺炎と診断された。セフェム系抗生剤に加えて、硫酸アルベカシンを追加。発症3 日後より本剤を1 回200 mg、1 日2 回(1 日量400 mg)点滴静注し、投与15 日目に本剤の投与量を通常の投与量(1 日量200 mg)に半減したが、腎機能障害の悪化を認めた。尿中β2-ミクログロブリンの上昇を認めたが、尿中好酸球の増加は認めなかった。本剤の投与を中止した。補液を十分に行い、経過観察をしたところ、軽快傾向を示した。
  • (3)ニューキノロン系抗菌薬
    • 推定原因医薬品
      • ニューキノロン系抗菌薬
        ノルフロキサシン、エノキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、塩酸シプロフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、トシル酸トスフロキサシン、フレロキサシン、スパルフロキサシン、メシル酸パズフロキサシン、プルリフロキサシン等
      • ニューキノロン系抗菌薬での腎障害はアレルギー性の急性腎炎によるものと尿細管腔の閉塞障害によるものとの報告がある。閉塞障害では尿のpH がアルカリでは溶解性が悪く結晶析出による閉塞障害が問題となる。また横紋筋融解症による急性腎不全の報告もあるが横紋筋融解については「横紋筋融解症」のマニュアルを参照のこと。
    • 医薬品ごとの特徴:
      医薬品ごとの明らかな特徴はなく詳細は不明である。
      副作用発現頻度:
      不明。パズフロキサシン注射薬の市販後調査の結果によると2002 年9月から6 ヶ月間に4320 の医療機関で使用されたもののうち2 件に急性腎不全が認められた(日本化学療法学会誌53:151,2005)。レボフロキサシン市販後調査(1993-2004)によると45 例(推定投与例数約1 億例)に腎機能障害。シプロフロキサシン市販後調査によると錠剤1 例/13143 例、注射16 例/3160 例に腎機能障害。
    • 副作用発現頻度:
      • 不明。パズフロキサシン注射薬の市販後調査の結果によると2002 年9月から6 ヶ月間に4320 の医療機関で使用されたもののうち2 件に急性腎不全が認められた(日本化学療法学会誌53:151,2005)。レボフロキサシン市販後調査(1993-2004)によると45 例(推定投与例数約1 億例)に腎機能障害。シプロフロキサシン市販後調査によると錠剤1 例/13143 例、注射16 例/3160 例に腎機能障害。
    • 典型的症例:
      • 80 歳代、男性 (被疑薬)塩酸シプロフロキサシン
        発熱、腹痛を生じ、WBC 9400/μL、CRP3.6 mg/dL で急性胃腸炎の診断のた
        め塩酸シプロフロキサシン600 mg(200 mg×3)内服開始。2 日後の採血にて
        BUN35.3 mg/dL、 Cr1.7 mg/dL(投与前は0.9 mg/dL)と上昇。尿量は800 mL で
        あった。発熱、腹痛は軽快、CRP 1.4mg/dL と改善。塩酸シプロフロキサシン
        を200 mg×2/日に減量。3 日目乏尿となったため利尿薬を静注したが1日尿
        量510 mL/日と反応は乏しかった。4 日目塩酸シプロフロキサシンを中止。そ
        の後、5 日目より利尿が得られ尿量2400 mL/日となったが血清Cr2.9 mg/dL、
        BUN47 mg/dL であった。6 日目尿量3800 mL となり補液を開始。Cr3.3 mg/dL、
        BUN46.6 mg/dL であった。7 日目尿量4200 mL、Cr2.6 mg/dL、BUN40.0 mg/dL
        と改善。塩酸シプロフロキサシン中止7 日後にBUN 14.5 mg/dL、Cr1.0 mg/dL
        と正常化した。
  • (4)ヨード造影剤
    • 推定原因医薬品
      • イオン性 アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、イオキサグル酸、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、イオトロクス酸メグルミン
        非イオン性 イオキシラン、イオジキサノール、イオトロラン、イオパ
        ミドール、イオプロミド、イオヘキソール、イオベルソー
        ル、イオメプロール
    • 発症機序
      • 血管内に投与された造影剤は約99%が尿中へ排泄されるため投与方法や投与量にかかわらず腎臓に何らかの負荷がかかる。直接的な尿細管上皮細胞への毒性と腎髄質虚血の相互作用の結果として起こると考えられている。造影剤による尿細管の障害は主として髄質の尿細管に起こるとされている。造影剤の高浸透圧性や尿細管腔へ流出した近位尿細管由来の酵素が直接、尿細管上皮細胞を障害すると考えられ、加えて造影剤による尿酸、シュウ酸の分泌亢進による尿細管の閉塞が原因となる。造影剤の投与直後には数秒間、一過性に腎血流が増加し続く数分後に腎血流は急速に低下し始める。その後、腎血流の低下は長時間持続する。この腎血流低下には造影剤自体の高浸透圧性だけではなく様々なmediator が関与しており血管内皮細胞から放出されるエンドセリンやアデノシンなどの血管収縮因子の分泌増加や一酸化窒素(NO)、プロスタグランジンなどの血管拡張因子の減少が考えられている。腎髄質は酸素分圧が低いことより酸素摂取率が高くなり酸素予備能が小さいことが知られている。つまり、造影剤使用に伴う血流低下によりさらに酸素分圧が低下した結果、腎髄質虚血により尿細管壊死が誘導され腎機能が低下すると考えられている。
    • (4)ヨード造影剤
      推定原因医薬品:
      造影剤
      ○イオン性:アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、イオキサグル酸、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、イオトロクス酸メグルミン
      ○非イオン性:イオキシラン、イオジキサノール、イオトロラン、イオパミドール、イオプロミド、イオヘキソール、イオベルソール、イオメプロール

      発症機序:
      血管内に投与された造影剤は約99%が尿中へ排泄されるため投与方法や投与量にかかわらず腎臓に何らかの負荷がかかる。直接的な尿細管上皮細胞への毒性と腎髄質虚血の相互作用の結果として起こると考えられている。
      造影剤による尿細管の障害は主として髄質の尿細管に起こるとされている。造影剤の高浸透圧性や尿細管腔へ流出した近位尿細管由来の酵素が直接、尿細管上皮細胞を障害すると考えられ、加えて造影剤による尿酸、シュウ酸の分泌亢進による尿細管の閉塞が原因となる。造影剤の投与直後には数秒間、一過性に腎血流が増加し続く数分後に腎血流は急速に低下し始める。
      その後、腎血流の低下は長時間持続する。この腎血流低下には造影剤自体の高浸透圧性だけではなく様々なmediator が関与しており血管内皮細胞から放出されるエンドセリンやアデノシンなどの血管収縮因子の分泌増加や一酸化窒素(NO)、プロスタグランジンなどの血管拡張因子の減少が考えられている。腎髄質は酸素分圧が低いことより酸素摂取率が高くなり酸素予備能が小さいことが知られている。つまり、造影剤使用に伴う血流低下によりさらに酸素分圧が低下した結果、腎髄質虚血により尿細管壊死が誘導され腎機能が低下すると考えられている。

      予防・治療・予後等:
      ・具体的予防法
      不要な造影剤検査は行わない。用量依存的に急性腎不全の発症頻度が上昇し、最も高いリスクファクターは既存の腎機能低下であるので、造影剤使用前には必ず腎機能評価を行う。
      既存の腎疾患を有する患者、腎機能障害、糖尿病、重症心不全、多発性骨髄腫、腎毒性医薬品併用、高齢者はリスクファクターとなるので留意しておく。
      イオン性造影剤と非イオン性造影剤を使用した場合にイオン性造影剤を使用した場合の方が急性腎不全の発症が多かったとする報告もあり(Kidney Int 47:254,1995)、リスクファクターを有する患者ではイオン性造影剤の使用は出きる限り避け非イオン性等浸透圧造影剤を使用すべきとしている(N Engl J Med 348:491, 2003)。
      造影剤の前後に充分に補液を行うことが有意に発症を抑制することが知られており推奨される(Arch Intern Med 162:329,2002)。生理的食塩水を1 mL/kg/hrの速度で前後12時間持続投与する方法が一般的である。その際に炭酸水素ナトリウムを造影剤使用前3 mL/hr、使用後6 時間1mL/hr 投与することにより等張液以上に効果を示すという報告もある(JAMA 291:2328,2004)。生理的食塩水にフロセミドやマンニトールを併用すると逆に血清クレアチニンが上昇するので使用を避ける(N Engl JMed 331:1416,1994)。
      アセチルシステインの抗酸化作用が予防法として有用であるとする報告(N Engl J Med343:180,2000 、Kidney Int.62:2002, 2002 、JAMA289:553,2003))もある。またメタ解析において慢性腎不全患者における
      造影剤腎症の相対的リスクが輸液療法にアセチルシステインを加えると輸液療法のみよりリスクが低下したとしている(Lancet 362:598,2003)。しかし最近否定的な報告もあり(J Am Soc Nephrol 15:761, 2004)有用性は確立されておらず、我が国において保険適応はない。cAMP のアナログ(dibutyryl-cAMP)やプロスタサイクリンのアナログであるベラプロストナトリウムが保護作用を示すことが報告されている( KidneyInt.64:2052,2003、Kidney Int.65:1654,2004)が実用化はされていない。造影剤投与後の血液透析については60〜90%造影剤が除去される(Nephron70:430, 1995)とのことから有効であると考えられたが予防効果が認められないとする報告が多い(Nephrol Dial Transplant 13:358,1998)。造影剤投与後20 分以内に腎障害が発症するとのことから造影検査前から検査後24時間まで予防的に持続血液濾過を行い有効であったとする報告もある(N Engl J Med 349:1333)が有効ではなかったという報告もある(Am J Med 111:692,2001)。予防的血液濾過透析は現実的ではなく我が国では行われていない。

      ・具体的治療法
      造影剤腎症に対して特殊な治療法はなく一般的な急性腎不全の治療を行う以外にない。多くは補液を行い、体液、電解質バランスを調整し腎機能の回復を待つが乏尿や電解質異常、代謝性アシドーシスがみられるような重症の場合は血液透析療法を考慮する。急性腎不全の回復期には利尿期がおとずれるため体液、電解質バランスに留意する。造影剤による急性腎不全の予防には造影剤投与前後の生理的食塩水輸液が信頼しうる方法でありかつ治療法となる。

      典型的症例:
      60 歳代、女性 (被疑薬)造影剤
      40 歳頃関節リウマチが発症しステロイド、ペニシラミン、NSAIDs にて加療開始され、その後症状は軽減し血清学的にもリウマチ因子は落ち着いたため、ステロイドは減量されペニシラミンと頓用のNSAIDs で経過観察されていた。
      55 歳頃から尿蛋白1+程度が出現し持続していたが腎機能は血清クレアチニン0.8 mg/dL 程度と変化はみられなかった。最近尿潜血が出現しはじめたため、結石や腫瘍の鑑別のため静脈性尿路撮影を行った。検査一週間後下腿に軽度の浮腫をみとめたため外来受診し、血液検査上、血清クレアチニン値3.5mg/dL と上昇がみられ、急性腎不全の診断にて入院となった。尿量は一日500mL と乏尿傾向にあり、FENa 1.8 で腎性急性腎不全であった。補液、利尿薬にても利尿は得られず乏尿が続き、造影剤使用10 日後に血清クレアチニン値7.3 mg/dL、高カリウム血症、代謝性アシドーシスがみられたため血液透析を導入した。血液透析3 回施行後より一日2000 mL 以上の尿量が得られるようになり、造影剤使用25 日目に血清クレアチニン値の正常化を認めたため退院とした
      4.その他、早期発見・早期対応に必要な事項
      (1)早期発見に最低限必要な検査項目と初回検査実施時期と実施周期検査項目:
      最重要項目:
        血清尿素窒素、
        血清クレアチニン、
        電解質、尿所見
      その他必要項目:
        尿中α1-・β2-ミクログロブリン、
        尿中NAG、FENa、血清シスタチンC、
        胸部X 線検査

      検査異常発見後に至急に実施すべき特殊検査:血液ガス検査、心電図
      初回検査時期:投与後2 週間
      検査周期:2 週から1 ヶ月

      (2)その他
      NSAIDs は両側腎動脈狭窄、片腎、多発性骨髄腫、脱水では投与を避ける。ACEIは両側腎動脈狭窄、片腎、多発性骨髄腫、脱水では投与を避ける。

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