- 早期発見と早期対応のポイント
- 早期に認められる症状
- 多尿や頻尿とそれに伴い口渇・多飲を認める。尿量は1日3000mL以上である。 1〜2時間ごとの夜間頻尿,夜間飲水などの非典型的な症状を訴えることもあるため、注意が必要である。一般的には、生活上の不都合として患者が自覚しやすい。飲水は冷水を好む傾向がある。
医療関係者は、上記症状のいずれかが認められ、その症状の持続もしくは急激な悪化を認めた場合には早急に入院施設のある専門病院に紹介する。
- 副作用の好発時期
- 原因医薬品を服用後、数日から1年くらいで発症することが多いが、数年以上のこともある。
- 患者側のリスク因子
- 腎機能障害、高齢者、脱水状態(利尿薬の併用)、うっ血性心不全、高カルシウム血症、低カリウム血症などの患者に次項の医薬品を使用する場合は本副作用の発現に注意する。
- 推定原因医薬品
- 推定原因医薬品は、主に躁状態治療薬(炭酸リチウム)、抗リウマチ薬(ロベンザリット二ナトリウム)、抗HIV薬(フマル酸テノホビル ジソプロキシル)、抗菌薬(イミペネム・シラスタチンナトリウム)、抗ウイルス薬(ホスカルネットナトリウム水和物)など広範囲にわたり、その他の医薬品によっても発症しうることが報告されている。
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- 医療関係者の対応のポイント
- 1日尿量が3000mL以上であり、水分制限にても尿量の減少を認めない場合は本症が疑われる。確定診断には、早急に採尿・採血検査等を行い、他の疾患の否定が必要である。
以上の症状・検査により本症が強く疑われる場合は、直ちに入院させた上で、腎臓内科とのチーム医療を行う。
- [早期発見に必要な検査]
- 尿検査
- 1日尿量、尿浸透圧、尿中アクアポリン2(AQP-2)、 尿中バソプレシン(AVP)
- 血液生化学
- 血清クレアチニン(Cr)、血清尿素窒素(BUN)、血清Na, 血漿浸透圧,尿酸、血中AVP
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- 副作用の概要
- 自覚症状
- 多尿・口渇・多飲が主症状である。 頻繁な飲水,1〜2時間ごとの夜間頻尿など生活上の不都合として患者が自覚しやすい症状である。飲水は冷水を好む傾向がある.
- 他覚症状
- 進行すると体液が減少し、発汗減少,皮膚・粘膜の乾燥,微熱などの症状がみられることがある
- 臨床検査値
- 尿検査
- 1日尿量は通常3,000mLを超える多尿
- 尿浸透圧は血漿浸透圧を下回る
- 典型例では、尿浸透圧100mOsm/kg以下
- 水制限にても尿量の減少を認めない
- 尿中アクアポリン2排泄は低下
- 血液検査
- 血漿浸透圧は正常ないし軽度上昇
- 血漿AVP濃度は軽度上昇
- 脱水が進行するとBUN増加、Cr増加、電解質異常(高Na血症)
- 画像検査所見
- 下垂体MRI (矢状断,冠状断)
- T1強調画像における後葉の高信号(正常像)
- 視床下部・下垂体CTまたはMRI 腫瘍像などの病変がない
- 病理組織所見(腎臓)
- 近位尿細管では著しい変化は認められないが、皮質および髄質の遠位尿細管と集合管では扁平上皮細胞が著明に扁平化、空胞化するために、上皮脱落、崩壊が起こり、管腔拡大を形成し、cysts、microcystsを形成する。糸球体の硬化像や間質の線維化も報告されている。
- 発生機序
- AVP感受性アデニル酸シクラーゼの障害により、細胞内cAMP産生が低下することが腎臓でAVPが働かない原因である。AVP の作用により調節される水チャンネルであるAQP-2発現障害も見られる。
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- 副作用の判別基準(判別方法)
- 主要所見
- ・原因薬剤の服用歴。 ・検査(腎生検を含めた)にて他の腎疾患の否定。
- 参考所見
- 判別が必要な疾患と判別方法
- 多尿を示す他の疾患
- @中枢性尿崩症
- AVP負荷試験により尿量は減少し,尿浸透圧は300mOsm/kgを超えて上昇する
- A心因性多飲症
- 低張尿を示す疾患には飲水過剰状態である心因性多飲症があるが,高張食塩水負荷時のAVP分泌反応は正常を示す
- B糖尿病
- 高張尿を示す多尿(浸透圧利尿)の代表は糖尿病であるが,尿中ブドウ糖の定量により,鑑別できる
- 治療方法
- @ 早期発見で障害が軽度なら原因薬の中止のみでよい。少なくても1ヶ月で自然寛解することが多い。
A 原因薬の中止でも回復が遷延するときは、チアジド系利尿薬を使用する。チアジド系利尿薬による尿量減少効果は、有効循環血液量の減少による近位尿細管でのナトリウム・水の再吸収の増加による。チアジド系利尿薬使用時は、血清カリウムの低下やカルシウムの上昇に注意する。
B 緊急時や薬剤耐性時には、NSAIDsを併用することもある。
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- 典型的症例概要
- 症例:60歳代、女性。
被疑薬:炭酸リチウム
使用理由:躁うつ病の治療
投与期間:約15年
既往歴:躁うつ病(23歳〜)、下行結腸癌(64歳)
家族歴:特記事項なし
現病歴:1962年(23歳時)に躁うつ病と診断され、1989年(50歳時)から15年間にわたり炭酸リチウムを投与されていた。この間、リチウムの投与量、血中濃度ともに適正範囲内であった。2004年7月に下行結腸癌に対して、結腸左半切除術施行された際、多尿が認められたため、大量輸液およびDDAVP点鼻(25μg/日)が開始された。
- 水分出納は輸液約5000mL/日、飲水約2000mL/日、尿量約9000mL/日であった。
- 炭酸リチウム投与中止後も、尿量3500〜5000mL/日、飲水2500〜4000mL/日と、多尿多飲状態が続いていたため、精査・加療目的にて当科紹介入院となった。
入院時現症:身長146cm、体重45kg、血圧144/76mmHg、脈拍65/分、体温37.0℃、意識は清明、瞳孔は正円同大、対光反射は正常に認められた。結膜に貧血、黄疸なく、口腔粘膜や皮膚の乾燥はなかった。心肺に異常なく、腹部には正中に手術痕を認め、腸雑音は正常であった。神経学的には両上下肢深部腱反射がやや亢進していた。
- 検査所見:血算では、WBC 4820/μl(NEUT 72.1%、LYMP 19.6%、MONO 4.8%、EOSI 1.1%、BASO 0.3%)、RBC 376万/μl、Hb 12.1g/dl、Ht 36.8%、PLT 20.2万/μlであった。
- 尿検査では、比重1.004、pH7.0、蛋白(-)、糖(-)、尿浸透圧159mOsm/kg、尿中Na32mmol/l、尿中Cl32mmol/l、クレアチニンクリアランスは49.2mL/minであった。
- 血清生化学検査では、総蛋白7.5g/dl、アルブミン4.7g/dl、AST 21mU/mL、ALT 16mU/mL、LDH 158mU/mL、CK
48mU/mL、AMY 111mU/mL、CRP 0.07mg/dl、電解質はNa 150mmol/l、K 4.0mmol/l、Cl 113mmol/l、Ca
8.9mg/dl、IP 2.9mg/mL、Mg 2.4mg/mL、腎機能はBUN 10mg/dl、クレアチニン0.92mg/dl、尿酸3.9mg/dl、総コレステロール247mg/dl、中性脂肪125mg/dl、空腹時血糖121mg/dl、血漿浸透圧307mOsm/kgであった。内分泌学的検査では、血清TSH
0.615IU/mL(0.47〜4.71)、血清LH 26.4mIU/mL、血清FSH 69.9mIU/mL、血清GH 0.22ng/mL(0.28〜8.70)、血漿ACTH
36.0pg/mL(7.4〜55.7)、血清PRL 48.8ng/mL(1.4〜14.6)、血漿AVP 12.4pg/mL(0.8〜6.3)であった。
- DDAVP負荷試験を施行したが、尿量、尿浸透圧はともにDDAVP 10μgの投与に反応せず、尿浸透圧が血漿浸透圧を上回ることはなかった。
- また、脳下垂体MRI施行したが、視床下部・下垂体茎に異常はなかった。
- 入院後経過:すでに前医にて炭酸リチウムの投与は約2週間前に中止されていたが、入院時、尿量4500mL/日、飲水量4200mL/日と多尿を認めていた。検査所見では、血漿浸透圧は307mOsm/kgと上昇し、血漿AVPは12.4pg/mLと増加していたが、尿量の減少はなく、尿浸透圧は159mOsm/kgと低値であった。DDAVP負荷試験においても、尿量・尿浸透圧の変化はみられなかった。以上より腎性尿崩症と診断した。炭酸リチウムの投与中止継続およびヒドロクロロチアジド
25mg/日(後に12.5mg/日)投与にて、2日後には尿量は2500mL/日程度まで減少し、多飲傾向も消失した。ヒドロクロロチアジドの副作用と考えられる低カリウム血症が生じたが、カリウム製剤投与にて基準値域に維持できた。入院17日で経過良好にて転院となった。
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