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| 老 い 激 し い 性 的 願 望 が 妄 想 に |
「年をとっても、異性との触れあいを求める気持ちが減るわけではない。長い人生では、学習に仕事に打ち込みたくなる時期、ふたつが重なり合う時期がある。異性を求めても、青年期、中年期、初老期、そして老年期はそれぞれに質的な差があるようだ。 私は有料老人ホームで相談にあたる以前、特別養護老人ホームに巡回診療に携わったことがあるが、そのころはあまり老人の性的願望に気がつかなかった。当時の特別養護老人ホームに個室はなく、プライバシーを奪われている限り、異性との接触欲求もひとつの形を取り得なかったのだろうか。マンションや個室にすむ老人の精神相談を受けるようになって、老人の性的願望の激しさに驚いたものである。 もっとも、以前からヨーロッパの老人の性的願望については知っていた、ドイツの大衆新聞を開くと、かなり年配の男女がパートナーを求める小さな広告が延々と載っている。また70歳や80歳の女性から、若いときに、あるいはつい最近まで、自分がいかに男性に愛されていたか、執拗に聞かされることもあった。その直接的な性的表現に、文化の差を強く意識させられた 屈折はしているが、日本の老人の性的願望にも激しいものがある。そう思うようになったのは、80年代になってからのこと。 例えば、隣家の物音が気になって寝付かれない、窓の外からおなかのなかをいじる電波が入ってくるといった訴えを聞いていると、多くは性的な妄想に突き当たる。隣家のひとり暮らしの男性を訪ねて、毎夜、女性がきている。明け方まで、ベッドのきしむ音やあえぐ声が響いて眠られない。わざわざ私に聞こえるように、ベッドを私の寝室側に置いている。 あるいは、最近、子宮腫瘍の手術をしてもらった医者が、若い女性とセックスをしている。2人のからみあう声が私のベッドの下や、壁の間から聞こえてくる。胸がドキドキし、頭がさえてきて、眠られない。毎夜のことなので、どうしていいか分からない。 同じように、72歳の女性は訴える。寝ていると、腰から股にかけてピリピリしてくる。何か熱い物のようなものが送られてくるのか、体と布団がふれている部分から熱くなってくる。それが強いと、肩がこった時のように、しこりになって、日中も残っている。毎夜のように、天井の裏で男女が抱き合っている。男性が誰か、分かっているけど、今は言いたくない。声や音、電波や熱線だけでなく、においの体験も少なくない。布団に横になると、畳の間から、色々なにおいが流れてくると訴える女性もいる。何日も洗わないで着ている下着のにおい・ポマードの匂い、もっときつい匂いもある、という。 こんな性的体験を何と呼べばいいのだろうか。嫉妬や被害妄想とも言いかねる。恋愛妄想とも言えない。妄想にあまり振り回されず、それと共に生活しているようなところがある。被害的に見えて、性愛への願望が巧みに投影されている。いずれも高齢の女性の訴えだが、身構えながら愛を求める日本の女性の心性をよく表している。 (野田正彰・京都造形芸術大学教授) |
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