尿閉

排尿困難

無尿

尿量減少

小便の出が悪い


乏尿




尿閉・排尿困難      (厚生労働省
英語名:Urinary retention、Dysuria
同義語:なし
  • 膀胱収縮力と尿道抵抗のバランスがくずれて、尿が膀胱に充満していて尿意があるのに排尿できない尿閉や尿が出づらくなる排尿困難が医薬品によって引き起こされる場合があります。
  • 主に抗ムスカリン様作用を有する薬物を含む、過活動膀胱治療薬、胃腸薬、下痢止め薬、抗精神病薬・抗うつ薬、抗不整脈薬などでみられ、総合感冒薬のような市販の医薬品でもみられることがあります。
  • 何らかのお薬を服用していて、次のような症状がみられた場合には、放置せずに医師・薬剤師に連絡してください。
  • なお、尿閉の場合には迅速な病院への受診が必要となります。
    • 「尿意があるのに排尿できない」、
      「尿の勢いが弱い」、
      「尿をしている間に尿が何度もとぎれる」、
      「尿が出るまでに時間がかかる」、
      「尿をし始めるためにお腹に力を入れる必要がある」、
      「尿をしたあとにまだ尿が残っている感じがある」
などがみられ、これらの症状が急に強く自覚されたり、持続したりする。




1.尿閉と排尿困難とは?
  • 尿閉は尿が膀胱に充満していて尿意があるのに排尿できない状態で、苦痛を伴います
  • 排尿困難
    • 尿の勢いが弱い(尿勢低下)、
      尿が1 本ではなく分かれて飛びちる(尿線分割)、
      尿をしている間に尿がとぎれる(尿線途絶)、
      尿が出るまでに時間がかかる(排尿開始遅延)、
      尿をする時にりきむ(腹圧排尿)、
      尿のおわりぎわに勢いが弱まり尿が滴下する(排尿終末時尿滴下)などの排尿症状が起こる状態です。
  • 尿閉と排尿困難は膀胱の収縮力の低下や尿道の締まる強さ(尿道抵抗)の増加を来たす病態のために起こり、膀胱収縮力と尿道抵抗のバランスがくずれると残尿が生じます。
  • 膀胱収縮力の低下は、膀胱と尿道を支配する神経の障害により起こる神経因性膀胱や、尿道が塞がって起こる下部尿路閉塞状態の一定期間の継続後に続発して起こります。
  • 下部尿路閉塞疾患でもっとも頻度の多い疾患は男性の場合には前立腺疾患(前立腺肥大症、前立腺癌)です。次に認められる疾患は尿道狭窄です。
  • 尿閉と排尿困難は医薬品によっても起こります。多くの医薬品が原因になりますが、代表的なものとしては頻尿尿失禁治療薬・過活動膀胱治療薬、抗精神病薬・抗うつ薬、抗不整脈薬などでみられます。総合感冒薬のような市販の医薬品でもみられることがあります。
  • 医薬品によって尿閉と排尿困難が起こる機序として、尿路系を司っている自律神経への影響が知られています。
    1. 1つめの機序として、膀胱の筋肉(排尿筋)の収縮を司る自律神経(ムスカリン受容体)の働きが抑制を受ける場合と、
    2. 2つめの機序として、自律神経の中でも別のタイプへの作用(αアドレナリン作用)により、尿道の収縮を司る筋肉(尿道括約筋)の抵抗が高まる場合
    もあります。






2.早期発見と早期対応のポイント
  • 原因と考えられる医薬品を服用してから数時間以内に発症することもありますし、数カ月後に発症することもあります。
  • 糖尿病などがあり、排尿筋の収縮力が低下している場合には発症しやすくなります。
  • とくに、前立腺肥大を合併している男性では起こりやすいので、留意が必要です。
    • 「尿意があるのに排尿できない」、
    • 「尿の勢いが弱い」、
    • 「尿をしている間に尿が何度もとぎれる」、
    • 「尿が出るまでに時間がかかる」、
    • 「尿をする時にりきむ」、
    • 「尿をしたあとにまだ尿が残っている感じがある」
    • などがみられた場合で、医薬品を服用している場合には、放置せずに、医師・薬剤師に連絡するか、医師の診察をすみやかに受けて下さい。
  • 尿閉に対しては、
    1. 尿道からカテーテルを膀胱内に挿入して、膀胱内の尿を導尿することが必要です。
    2. また、症状なく進行する場合もあるので、早期発見・早期対応のため、以下の医薬品を服用している方は、担当医から尿閉と排尿困難を含めた副作用とその早期発見のための注意などの説明があると思いますので、その指示に従ってください。
      • 頻尿尿失禁治療薬
      • 過活動膀胱治療薬
        胃腸薬、
      • 下痢止め薬
        抗精神病薬
      • 抗うつ薬
        抗不整脈薬
        総合感冒薬




1.早期発見と早期対応のポイント
  • 薬剤投与による尿閉・排尿困難は、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞、あるいは膀胱排尿筋の収縮力低下を有する症例において起こりやすい(表1)。
  • 前立腺肥大症は男性特有の疾患であるが、尿道狭窄や膀胱頸部狭窄などの下部尿路閉塞は男女ともにみられることがある。
  • また、膀胱排尿筋の収縮障害は、糖尿病、腰部椎間板ヘルニア、腰部脊椎管狭窄症、直腸癌や子宮癌に対する根治手術などによる末梢神経障害に伴う神経因性膀胱において見られることがある。しかし明らかな神経疾患とは関係なく、加齢による膀胱機能変化として見られることも少なくない。したがって、膀胱機能に影響する可能性のある薬剤投与にあたっては、投与前に排尿障害の有無について評価を行うことが、早期発見と早期対応のために一次的に重要なポイントとなる。
  • 膀胱排尿筋収縮障害を引き起こす可能性のある疾患についての既往歴の聴取に加え、
    • 尿勢低下(尿の勢いが弱い)、
      尿線分割(尿線が1 本ではなく分かれて飛び散る)、
      尿線途絶(排尿中に尿線が途切れる)、
      排尿遅延(排尿開始までに時間がかかる)、
      腹圧排尿(排尿する時にりきむ)、
      終末滴下(排尿の終わりがけに尿が滴下するくらい勢いが悪い)                 などの排尿症状について、薬剤投与までに十分に問診することが重要である。
  • また、薬剤投与前に残尿測定を行うことにより、薬剤性尿閉・排尿困難の発生リスクの高い患者を除外することができる。残尿測定は、排尿直後に膀胱内に残存する尿量を計測するものであるが、近年の超音波検査機器の普及により、侵襲的にカテーテルによる導尿を行わなくても、非侵襲的に残尿量の評価を行うことが可能となっている(図1)。
  • 尿閉・排尿困難を起こし得る薬剤を投与する場合には、既往歴聴取、排尿症状の問診は必須であり、可能であれば残尿測定を行うことが望ましい。これらの評価により投与前に排尿障害が疑われる場合には、投薬を行わず、泌尿器科専門医を受診させることが望ましい。薬剤投与中においては、再診時に前述の排尿症状について問診を行い、排尿症状の出現あるいは悪化について評価することが早期発見と早期対応のポイントとなる。
  • 排尿障害では、排尿症状がみられるが、排尿困難が重症となり残尿が増加すると、膀胱の機能的容量が減少し、前述の排尿症状に加えて、1 回排尿量の減少、頻尿、夜間頻尿などの蓄尿症状もみられるようになるので、注意を要する。また、残尿測定は、少なくとも排尿障害発生リスクの高い患者については、投与後定期的(例:投与2 週後、以後3 ヶ月ごと)に施行することが望ましい。
    さらに、前述の排尿状態悪化の可能性、その場合の自覚症状について患者に十分に説明を行い、排尿困難にかかわる症状を自覚した場合には、すみやかに受診するように指導することも早期発見、早期対応のポイントである。


2.副作用の概要
  • 排尿困難は尿排出機能の低下であり、前述の種々の排尿症状を引き起こし、また高度になれば膀胱内の尿を完全に排出することが困難になり残尿をきたすようになる。
  • さらに排尿困難が高度になれば、膀胱内に尿が充満し、強い尿意あるいは痛みがあるにもかかわらず尿が出せない状態、すなわち尿閉を引き起こす。
  • 薬剤投与による尿閉・排尿困難の病態は、膀胱収縮力の低下あるいは尿道抵抗の増大である。
    膀胱排尿筋にはムスカリン受容体が豊富に存在し、副交感神経刺激によりアセチルコリンが分泌され、ムスカリン受容体刺激により排尿筋収縮を惹起するが、抗ムスカリン作用を有する薬剤の投与により、排尿筋収縮力の低下が起こり得る。
  • 尿道および膀胱頸部には交感神経α受容体が豊富に存在するため、交感神経α受容体刺激作用を有する薬剤の投与により尿道抵抗が増大することがある。


3.副作用の判別基準
  • 尿閉の判別は容易である。
    • 膀胱内に尿が充満しているにもかかわらず、尿排出ができない状態で、強い尿意あるいは下腹痛を伴い、下腹部は充満した膀胱のため膨隆している。
  • 超音波検査により、尿の充満した膀胱を容易に確認することができる。尿閉状態で膀胱内に多量の尿が充満し、膀胱の蓄尿機能を凌駕すると、尿道から溢れる状態で尿が持続的に漏れてくることがある(溢流性尿失禁)ので、尿失禁があるからといって尿閉の存在を見逃さないようにすることも重要である。
  • 一般診療における排尿困難の判別では、自覚症状の聴取が重要である。
    薬剤投与後の尿勢低下、尿線分割、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下などの排尿症状の出現あるいは悪化は、薬剤による排尿困難の副作用出現と考えるべきである。また、残尿増加による、1 回排尿量の減少、頻尿、夜間頻尿の出現や悪化についても注意して判別する。客観的な判別基準としては、薬剤投与前後での残尿量の変化の評価が有用である


4.副作用の判別が必要な疾患と判別方法
  • 前述の尿閉・排尿困難を起こし得る疾患(表1)においては、薬剤以外に、飲酒、排尿をがまんすることによる膀胱過伸展、心因性要因などが排尿困難の悪化や尿閉をきたすことがあり、また疾患自体の病勢悪化により尿閉が起こることもある。
  • 薬剤による副作用との判別については、排尿困難をきたす可能性のある薬剤投与後に排尿状態の悪化がみられる場合には、まず薬剤の副作用を考慮して、後述する治療法に従って対処すべきである




表1 薬剤により尿閉・排尿困難を起こしやすい下部尿路疾患
  1. (病態)下部尿路閉塞
    • (疾患):
      1. 前立腺肥大症
      2. 尿道狭窄
      3. 膀胱頸部狭窄
      4. 尿道括約筋排尿筋協調不全
    • (脊髄損傷、特に頸髄損傷による神経因性膀胱)など
  2. (病態)排尿筋収縮障害
    • (疾患)
      1. 糖尿病性末梢神経障害による神経因性膀胱
      2. 腰部椎間板ヘルニアによる神経因性膀胱
      3. 腰部脊椎管狭窄症による神経因性膀胱
      4. 二分脊椎症による神経因性膀胱
      5. ギラン・バレー(Guillain-Barre)症候群による神経因性膀胱
      6. 直腸癌根治手術後の神経因性膀胱
      7. 子宮癌根治手術後の神経因性膀胱
      8. 加齢による膀胱収縮障害
      9. 長期下部尿路閉塞に伴う膀胱収縮障害
      など




5.副作用の治療法
  • 薬剤投与による尿閉・排尿困難では、
    1. まず排尿状態悪化に関与すると思われる薬剤を中止する。
    2. 次いで、尿閉例では尿道からカテーテルを膀胱内へ挿入して、膀胱内に充満した尿を排出する(導尿)。
    3. 1回の導尿で自排尿可能となることも多いが、尿閉が持続する場合には清潔間歇自己導尿を指導する。

    清潔間歇自己導尿は、膀胱容量が300〜400mL を超えない範囲で、1 日に必要回数だけ自己、あるいは家族により導尿を行う排尿管理方法で、自排尿が回復するまで続行させる。
    尿道カテーテル留置はできる限り避けるべきではあるが、やむをえない場合は、1〜3 日程度の留置にとどめる。3日程度の間歇導尿の続行、あるいはカテーテル留置・抜去後も尿閉が改善しない場合、あるいは自排尿が得られても100mL以上の残尿が見られる場合には泌尿器科専門医を受診させる必要がある。
    排尿困難が出現した例では、残尿測定を行い残尿が100mL 以上みられる場合には泌尿器科専門医を受診させる。

図1 超音波による残尿測定方法
  • 超音波検査装置にて、下腹部にて2 方向で(環状断・矢状断)膀胱を描出し、図のように3 方向の距離を計測することにより、残尿量を概算することができる。
  •  
    (冠状断)

    (矢状断)



6.典型的症例
<尿失禁頻尿治療薬>
  • [症例 1]
    60 歳代、男性
    主訴:頻尿
    現病歴:1 年半前頻尿にて初診となった。国際前立腺症状スコア(IPSS)23 点で蓄尿症状が強かった。
    QOL スコア6点。
    • 前立腺特異抗原(PSA)0.95 ng/mL。前立腺は体積15mL と小さかった。尿流測定の結果(図2)、最大尿流率18 mL/min、平均尿流率6 mL/min、残尿10 mL で、排尿障害(排尿困難)は軽度と判断した。
      受診後経過:α遮断薬の塩酸タムスロシン(0.2 mg)1 錠と抗コリン薬の塩酸プロピベリン(10 mg)1 錠が投与された。この年、受診は一回だけで投薬も1ヶ月で終了していた。
      半年前、夜間頻尿(4〜5 回)にて再診となった。前立腺体積15.7 mL(図3)、残尿4 mL で、排尿日誌より夜間多尿の傾向も認められた(夜間尿量率38%)。水分の摂取制限の指導を行うと共に、α遮断薬のナフトピジル(25 mg)2 錠が投与された。しかし夜間頻尿改善せず3 錠に増量されたがやはり夜間頻尿は不変であった。抗コリン薬が必要と考えられ、4 ヶ月前より塩酸タムスロシン(0.2 mg)1 錠と塩酸プロピベリン(10 mg)2 錠が開始された。2 剤の併用が開始された2 週後、尿意があっても排尿できず、下腹部が膨隆してきたため他院受診、尿閉と診断され尿道バルーンカテーテルが留置された。当科では塩酸プロピベリンを中止し、1 週間カテーテル留置の後、塩酸タムスロシン投与下にカテーテルを抜去した。自排尿は可能となったものの30 分毎の尿意と常に200mL 以上の残尿を認めていた。前立腺体積は小さく、これが原因で下部尿路閉塞を生じている可能性は低く、むしろ膀胱平滑筋の収縮障害(低活動膀胱)と判断し、α遮断薬シロドシン(2 mg)4 カプセルと塩化ベタネコール30 mg が投与された。しかし排尿は改善されず残尿は常に200mL 以上で、時々間欠導尿が施行されていた。膀胱の内視鏡検査を行ったところ前立腺部尿道では腺腫による圧排と膀胱への突出がみられ(図4)、膀胱壁は肉柱形成を認めた。また内圧流量測定(pressure-flow study)では高圧排尿であった。前立腺体積は小さいが下部尿路閉塞による排尿障害と診断され、経尿道的前立腺切除術を行った。切除重量は8g であった。
      手術後経過 術後1 週間の尿流測定では最大尿流率25 mL/min、平均尿流率8 mL/min、残尿10 mL と排尿状態は著明に改善し(図5)、半年経過した時点でも残尿は認められなかった。
      当症例は159cm、53kg と小柄な体型で、初診時の前立腺体積は15mLであった。前立腺肥大症診療ガイドラインでは前立腺体積を20mL で区別しているが、小柄な当症例では15mL であっても下部尿路閉塞を来たす可能性があることを示唆している。初診時の尿流量測定で排尿障害は軽度と判定されても、下部尿路閉塞に対する膀胱の代償機能が働いて一見正常そうにみえるだけなのかもしれない。加齢に伴う膀胱機能障害(膀胱平滑筋収縮障害)を加味するとやはり高齢者に対する抗コリン薬の投与は十分慎重でなければならないと思われる。抗コリン薬は過活動膀胱に対する第1 選択薬であるが、50 歳以上の男性では常に前立腺肥大症などの下部尿路疾患の有無をチェックしながら投与しなければならない。

<抗精神病薬・抗うつ薬>
  • [症例2]
    70 歳代、男性。
    主訴:排尿困難
    既往歴:狭心症のため、2年前に他院で冠動脈ステント留置術を受けた。
    2年前から糖尿病に対して薬物療法・食事療法を受けている。
    • 現病歴:脳梗塞を発症し、保存的治療の後に、発症後1ヶ月でリハビリテーション病院へ転院した。転院時の内服薬は以下の通りであった。
      内服薬:グリメピリドボグリボース硝酸イソソルビド、塩酸ジルチアゼム、プラバスタチンナトリウムシロスタゾールアスピリン
      入院後に認知症と夜間せん妄の増悪を認めたためハロペリドールリスペリドンを投与したが、改善しなかった。そこで、クロルプロマジン50 mg、プロメタジン25 mg、ニトラゼパム10 mg を投与したところ、夜間せん妄は改善傾向となった。
      ところが、患者が排尿困難を訴えたので残尿を測定したところ900mLであったため、1日3回の導尿を行い、尿閉になってから1週間後に泌尿器科外来を受診した。腹部エコーでは前立腺容積は12.4 mL と前立腺肥大症を認めず、残尿は198 mL であった(図6)。間歇導尿は中止し、クロルプロマジン内服の減量と塩酸タムスロシン0.2 mg/日の内服を開始した。2 週間後に残尿測定を行ったが残尿量の改善をみとめなかったため臭化ジスチグミン10mg/日を併用し、残尿量は40 mL となった。
      当症例では、フェノチアジン系抗精神病薬であるクロルプロマジンやフェノチアジン系抗ヒスタミン薬のプロメタジンが投与されている。フェノチアジン誘導体は抗コリン作用を有し、排尿困難を引き起こしやすい。ベンゾジアゼピン系薬剤は、平滑筋直接作用と抗コリン作用も有する。クロルプロマジンとプロメタジンは、いずれもフェノチアジン系薬剤であって排尿困難を引き起こしやすい上に、糖尿病による神経因性膀胱(低活動排尿筋)を合併している可能性がある。このような場合には、クロルプロマジンやプロメタジンから他剤への変更が望ましい。

<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤>
  • [症例3]
    70 歳代、女性
    主訴:排尿困難
    既往歴:脳梗塞
    4 年前から、パーキンソン病の治療を受けている。
    3 年前から、うつ病にて治療を受けている。
    • 現病歴:38.5℃の発熱、嘔吐のため、イレウスを疑って入院となり、入院時の腹部CTで両側水腎症、膀胱拡張を認めた。残尿を測定したところ700 mL であったため、尿閉とそれによる水腎症、腎盂腎炎を疑って、尿道カテーテルを留置してただちに泌尿器科外来を受診した。
      入院時の内服薬は以下のとおりであった。
      内服薬:塩酸ミルナシプラン(SNRI:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、レボドパ(L-DOPA)、塩酸ロピニロール、ベラプロスト、フルニトラゼパム、フロセミド、ファモチジン。塩酸ミルナシプランによる排尿困難と考えて塩酸ミルナシプラン内服を中止したところ、すぐに自排尿が可能となり、入院1週間後に退院となった。
      当症例では、抗パーキンソン病薬と同時に抗うつ薬が処方されている。
      抗パーキンソン病薬のなかでは、ドパミン前駆体であるレボドパや、ノルアドレナリンプロドラッグであるドロキシドパ、ドパミン作動薬であるメシル酸ペルゴリドは、いずれもαアドレナリン受容体刺激作用があるため、排尿障害を起こす。抗うつ薬のなかで、ベンゾジアゼピン系のクロラゼプ酸二カリウムは中枢神経系の抑制による排尿抑制作用を有している。セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する塩酸ミルナシプランやデュロキセチン(我が国未承認)は、仙髄レベルで作用する腹圧性尿失禁治療薬として海外で開発中であるが、結果的に排尿障害を引き起こす可能性がある。

<抗不整脈薬>
  • [症例4]
    70 歳代、男性
    主訴:排尿困難・尿閉
    既往歴:3 年前から高血圧に対して薬物療法を受けている。
    • 現病歴:5日前から動悸があり、近医を受診したところ、上室性不整脈の診断を受け、内服薬が投与された。服用5 日後に尿勢低下、尿線途絶、腹圧排尿が出現したが、排尿は可能であった。しかし、投与7 日後には排尿困難が強くなり、下腹部の膨隆も認められために、泌尿器科を受診した。
      受診後経過:尿閉と診断され、導尿にて約800 mL の尿が得られ、下腹部の膨隆は消失した。上室性不整脈に対する内服薬品名・使用量・期間はジソピラミド・100mg/日・7 日間であり、ジソピラミドの副作用による尿閉と判断され、投与が中止された。投与中止後には排尿困難・尿閉はみられなくなった。

<総合感冒薬>
  • [症例5]
    60 歳代、男性
    主訴:排尿困難、発熱
    既往歴:16 年前から糖尿病を指摘され、糖尿病治療薬グリメピリド、ボグリボースを服用中であった。
    • 現病歴:6 年前から「排尿に時間がかかる」「昼間は2 時間毎に、夜間は3 回トイレに行く」などの排尿症状を認めたが、放置していた。咽頭痛、鼻汁、咳を認めたため、近くの薬局にて総合感冒薬を購入、服用した。服用2 日目から上記排尿症状が増悪し、「いきんでも、たらたらとしか尿が出ない」「朝起きると寝小便のように尿が漏れている」ことを自覚した。強い尿意や痛みなどがなかったため数日様子を見ていたが、38.4 度の発熱を認めたため泌尿器科を受診した。来院時、下腹部に充満した膀胱を触知した。直腸診で超鶏卵大に肥大した前立腺を触知し、圧痛を認めた。検尿にて白血球:多数/HPF(強視野拡大: HighPower Field)、 赤血球:1〜4/HPF と膿尿を認めた。排尿後の経腹式超音波断層検査で前立腺は肥大し推定体積76mL であった。残尿は531mLと多量で、膀胱内に多数の結石を認めた。後日施行した骨盤CT 像を示す(図7)。尿流測定にて最大尿流率8.7mL、平均尿流率3.5mL と尿勢は著明低下し、排尿時間は79 秒と延長していた。以上より、溢流性尿失禁を伴う重度排尿困難に急性前立腺炎を併発したと診断した。尿道カテーテルを留置、同総合感冒薬の服用を中止して抗菌剤レボフロキサシンを投与した。解熱後α1アドレナリン受容体遮断薬ナフトピジルの服用を開始し、尿道カテーテルを抜去した。その後自排尿可能となり、溢流性尿失禁は消失した。発症3 ヶ月後、国際前立腺症状スコア21 点、QOL スコア4点で残尿153mL であった。6 ヶ月後、経尿道的膀胱砕石・前立腺切除術を施行した。
      当症例は、前立腺肥大症による下部尿路閉塞と糖尿病性末梢神経障害による排尿筋低活動が原因の排尿障害を有していたと考えられる。糖尿病性末梢神経障害では膀胱知覚の低下を伴うことが多く、この症例のように尿意や自覚症状が乏しいために重症化し易く、溢流性尿失禁や尿閉になることが少なくない。また易感染性のために急性前立腺炎・膀胱炎・腎盂腎炎などの尿路感染を併発し易い。総合感冒薬に含まれるリン酸ジヒドロコデインやマレイン酸カルビノキサミンは抗コリン作用を、また塩酸メチルエフェドリンはαアドレナリン受容体刺激作用を有しており、前者は排尿筋収縮力を低下、後者は尿道抵抗を増大させるために排尿障害を起こす可能性がある。



チェック
排尿困難」「尿量減少」「小便の出が悪い







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