| 医薬品ごとの特徴 |
| 横紋筋壊死を生じる医薬品の種類は多岐にわたる。横紋筋融解症と関連が否定できない医薬品として添付文書にすでに記載され、症例報告のあるものの中で、比較的頻度の多い医薬品を中心に各医薬品についてその副作用の概略を述べていく。 |
@ HMG-CoA 還元酵素阻害薬
- 現在、最も副作用報告の多い医薬品である。服用開始後数ヶ月を経過して徐々に発症することが多い。筋痛が先行することが多く、また末梢神経障害の合併もしばしば認められることが知られている。
発症機序として詳細は明らかではないが、HMG-CoA 還元酵素阻害薬の作用として
- 形質膜内のコレステロール成分の減少による直接作用による、
- HMG-CoA からメバロン酸を経てゲラニルゲラニオール誘導体の減少を生じ、タンパク質のprenylation(脂肪酸を介したタンパク修飾の一種)の障害をきたす。このタンパク修飾は細胞内シグナル伝達・細胞周期・ミエリン化・細胞骨格蛋白動態など基本的な細胞機能に関係している、
- ゲラニルゲラニオール誘導体の減少から生じるコエンザイムQ10 の減少によりエネルギー代謝の障害が生じる、などの説があるが定説には至っていない。
- HMG-CoA 還元酵素阻害薬には多くの種類があり、アトルバスタチンカルシウム、プラバスタチンナトリウム、シンバスタチン、フルバスタチンナトリウム、ピタバスタチンカルシウム、ロスバスタチンカルシウムがある。
- 横紋筋融解などの筋毒性は、すべてのスタチンで生じる。
- 米国における調査ではスタチン服用者において筋肉痛は、2〜7%で生じ、CK 上昇や筋力低下は0.1%〜1.0%で認められる。重篤な筋障害は0.08%程度で生じ、100万人のスタチン服用者がいた場合には、0.15
名の横紋筋融解による死亡が出ていることになるという。
- 他の医薬品との併用、たとえばフィブラート系高脂血症薬、ニコチン酸製剤、エリスロマイシン、シクロスポリンなどの併用で頻度は上昇すると言われている。
- CYP3A4 で代謝されるアトルバスタチンやシンバスタチンでは、CYP3A4 を阻害するマクロライド系抗生物質との併用は注意を要する。
- フィブラート系高脂血症薬やシクロスポリンとの併用も薬物動態を変化させて血中濃度を上昇させ、横紋筋融解の危険を増加させるので特に注意が必要である。
本剤の筋痛は用量依存性の要素が認められる場合もあり、減量あるいは中止が必要か慎重に判断する必要がある。筋毒性の程度にはかなりの個人差があり、筋痛、筋けいれん、筋力低下の組み合わせのほか、横紋筋融解症にいたるもの、CK
上昇のみで症状のないものなど程度は様々である。またCK 上昇がなくとも筋生検上、異常筋組織が証明される場合や筋萎縮、筋力低下を生じる場合があり注意が必要である。
また、四肢末梢の違和感をともなう場合、またはCK 上昇がない筋力低下の中には、HMG-CoA 還元酵素阻害薬による末梢神経障害によるものがあることには、十分な注意が必要である。
さらに、本剤は横紋筋融解以外の筋疾患が発症するきっかけになる場合が知られており、多発筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎、MELAS などのミトコンドリアミオパチー、McArdle
病、CPT 欠損症、悪性高熱などがあげられている。本剤を中止しても症状が軽快しない場合には、もう一度診断について検討する必要がある。
治療に関しては、軽症といえども筋症状が出た段階で、HMG-CoA 還元酵素阻害薬を中止あるいは減量することがまず必要である。その後の用量については、症例ごとに適応を考えて判断する必要がある。横紋筋融解症が疑われた場合には、できるだけ早く中止する。腎機能障害がある場合には、初期においては輸液により腎保護を図ることなど、一般の横紋筋融解症の治療に準ずる。骨格筋症状の軽減・予防にコエンザイムQ10 の補充が有効であったとする報告もあるが、まだ一般的ではない。血中のユビキノンは低値であることが多いので今後の検討が必要なものと考える
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A フィブラート系高脂血症薬
- 高脂血症薬として用いられ、HMG-CoA 還元酵素阻害薬ほどではないとしても、横紋筋壊死の原因医薬品として重要なものである。
- 使用開始より数ヶ月から2年程度までの期間に発症することが多い。
- HMG-CoA 還元酵素阻害薬との併用は発症頻度を上げる。
- 全身の筋脱力低下、筋痛、筋けいれん、ときにミオグロビン尿症を生じる。
- 服薬中止後数日あるいは数ヶ月で回復する。
- 非可逆的な腎障害を生じうることは他の原因と同様である。
- 発症機序の詳細は明らかではないが、筋形質膜の不安定化を機序として考える説がある。
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B ニューキノロン系を主体とする抗生物質
- 抗生物質は、投与初期数日以内に急性に発症することから特に注意を要する医薬品である。ニューキノロン系抗生物質は、横紋筋融解をきたしたとする症例報告があり、直接的な筋毒性が示唆されている。
感冒様症状がある場合などウイルス感染に伴う横紋筋融解も知られており、注意が必要である。(「4.判別が必要な疾患と判別方法」の項参照)他の抗生物質において、添付文書中に横紋筋融解症が記載されているものは後述のリスト(「8.主な原因医薬品一覧」)を参照して頂きたい。マクロライド系抗生物質のクラリスロマイシンではスタチン系高脂血症薬やテオフィリンなどの医薬品との併用例での症例報告がある。
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C 抗精神病薬、抗パーキンソン病薬
- 抗精神病薬による最も重篤な副作用は、悪性症候群に伴うものが知られている。その詳細は、「悪性症候群」のマニュアルを参照して頂きたい※。
ここでは、その概略を簡潔に述べる。 ※ 2008年4月修正箇所悪性症候群においては、しばしば横紋筋融解症を伴うが、軽症ではCK 上昇、発熱などを示すのみで治療により軽快する。そのまま放置した場合、筋強剛・振戦、頻脈・発汗・血圧変動などの自律神経症状、意識障害、呼吸促迫あるいは低酸素血症、白血球増多、代謝性アシドーシス、ミオグロビン尿などの全身症状を伴い、悪性症候群としてまとめられている。
- ハロペリドールなどのドーパミンD2受容体遮断作用の強い抗精神病薬において頻度が高い。
- 近年導入された非定型抗精神病薬は、ドーパミンD2 受容体遮断作用が弱く、セロトニン(5-HT)2A 受容体遮断作用が比較的強い特徴があり、従来からの抗精神病薬に比較して、錐体外路症状が少ない利点がある。しかしこれらの医薬品においても、悪性症候群は報告されている。
- 制吐薬であるメトクロプラミドやドンペリドンにおいても、悪性症候群の報告例がある。
- 悪性症候群は抗精神病薬の投与のみならずより広範囲な抗精神病薬や抗パーキンソン病薬投与中に生じることがある。特に抗パーキンソン病薬は、中枢神経系に対する作用について抗精神病薬と逆の作用を持っていることから、急激な減量・中止で悪性症候群を生じやすいことに注意が必要である。骨格筋リアノジン受容体蛋白に作用してカルシウム放出を抑制するダントロレンナトリウムが悪性症候群においても有効である。
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- 関連するものとして、抗うつ薬の服用などで生じるセロトニン症候群は不穏などの精神症状、腱反射亢進などの錐体路徴候、振戦、発汗過多、呼吸促迫などを生じ、症状に類似点があることから、悪性症候群との関連も議論されている。共通点も多い症候群であるが、相違点を挙げてみると、悪性症候群では発熱が通常38℃以上であり、筋強剛などの錐体外路症状が著明である。一方、セロトニン症候群では発熱が軽度であり、消化器症状やミオクローヌスと言われる不随意運動が著明である。これらの点が症候から見た相違点と言われている。
- 悪性症候群は、抗精神病薬の開始当初あるいは増量時に多く生じるが、このような医薬品の変更のない状態でも生じうる。とくに感染、脱水症など全身状態の悪化している場合には、悪性症候群を生じやすい。悪性症候群の初期はCK
上昇のみであり、この時点で適切な輸液、ダントロレンナトリウムの投与、ブロモクリプチンなどの投与を考慮して観察する。悪性症候群を生じるときは、もともとの病状も増悪期である場合が多く、全身状態の悪化も加味して発症すると考えられている。発症中は精神運動興奮も合併し、治療に困難が多いことが知られている。米国では電気けいれん療法(electroconvulsive
therapy: ECT)の適応症に悪性症候群が挙げられ
ているのはこのようなことが背景としてある。
悪性症候群からの回復後、再度抗精神病薬投与が必要な場合も多く、このような場合には約2週間の休薬期間が推奨されている。
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D 麻酔薬・筋弛緩剤
- 全身麻酔中に横紋筋融解症を生じるものは、高熱・自律神経症状を伴い、悪性高熱として知られている。悪性高熱は、もともと何らかの筋疾患を持っている者、発症に至らずとも遺伝性筋疾患の保因者と考えられる者、高CK
血症などの素因がある場合に生じやすい。熱中症や運動時筋壊死の症状が認められた者も、リスクの高い者である。
特発性高CK 血症患者の約半数には、リアノジン受容体蛋白にアミノ酸変異を持つことが知られている。横紋筋が収縮するときに筋線維表面の形質膜の電位変化が、筋線維細胞内カルシウム濃度の上昇をきたし、筋原線維が収縮する過程の中で、リアノジン受容体蛋白は細胞内カルシウム濃度を上昇させるのに重要な役割を持つ蛋白である。多くの遺伝子変異が報告されているが、その他の遺伝子異常でも生じることが知られている。家系に悪性高熱をきたした者のいる場合には特に注意を要する。
本症は発症に気づかず無治療の場合には致死率70%に及ぶ病態である。古典的には呼気における二酸化炭素濃度の上昇、骨格筋の筋強剛、頻脈、高体温、アシドーシスなどが生じるとされている。
- 原因となる全身麻酔薬としては
- サクシニルコリン(スキサメトニウム)などの脱分極型筋弛緩剤、
- 揮発性の吸入麻酔薬、例えばハロタン、イソフルラン、エンフルラン、セボフルランなどのハロゲン炭化水素やハロゲン化エーテル系麻酔薬が知られている。一方、比較的安全とされているのは、非脱分極型筋弛緩剤、一酸化窒素、静脈麻酔薬、局所麻酔薬、オピオイド系鎮痛薬、ベンゾジアゼピン系麻酔薬、バルビツール酸系麻酔薬などである。後者の中には症例報告レベルではあるが発症例も報告されており、絶対的なものではないことに注意が必要である。
- 発症時には速やかに麻酔薬を変更し、人工呼吸は過呼吸とし、アシドーシスを補正し、リアノジン受容体蛋白による細胞内カルシウム放出を阻害するダントロレンナトリウムを投与する。これらの処置により致死率は5%以下まで低下してきている。
いずれにせよ予防的対応が必要であり、全身麻酔前のCK 測定によるスクリーニングが通常行われてきている。本症の発症を確実に避ける方法がないことから、少しでも疑わしい場合は代替的な方法で麻酔を行うことを検討する必要がある。
悪性高熱とは別の機序による筋障害として、非脱分極型筋弛緩剤を長期使用した場合に生じる重篤な筋障害には注意を要する。特に重症気管支喘息発作の場合に大量の副腎皮質ホルモンと併用した場合に頻回に生じうることが、よく知られている。重症型では横紋筋融解に至った症例も知られている。人工呼吸器による管理が必要な場合に、安易に非脱分極性筋弛緩剤を長期使用することは承認時には想定されておらず、さまざまな危険性が生じうることを確認すべきである。
また、麻酔薬による骨格筋障害として静脈麻酔薬であるプロポフォールをあげなければならない。呼吸器装着時の鎮静や痙攣重積状態での使用など、次第に汎用されてきている医薬品である。特に小児において本剤使用時に横紋筋融解症、代謝性アシドーシス、低酸素血症、心停止などの症状をきたし、プロポフォール症候群と呼ばれている。筋強剛や発熱を欠き、悪性症候群とは病状が異なる。血清CK
値は著明に上昇し、二次性の高カリウム血症も生じうる。骨格筋のみならず心筋の壊死も報告されている。
本症の発症頻度はそれ程高くはないが、高濃度・長期に本剤を使用せざるをえない時には血清CK 値を頻回に測定し、血清CK 上昇時には本剤の使用を中止し保存的に治療する必要がある。
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E 低カリウム血症などの電解質異常をきたす医薬品
- 低カリウム血症の症状として、不整脈とともに重視しなくてはいけないものが横紋筋融解症である。低カリウム血症では、形質膜の興奮性が変化することより周期性四肢麻痺を生じることが知られているが、低カリウム血症が遷延化すると形質膜の破綻を生じて、筋線維の壊死が広範囲に生じ、横紋筋融解症をきたす。
低カリウム血症をきたす医薬品としては、利尿剤、緩下剤、グリチルリチン製剤(甘草を含む漢方薬)、抗真菌剤であるアムホテリシンB、酢酸フルドロコルチゾンなどの副腎皮質ホルモンなどが知られている。医薬品ではないが、アルコール多飲のみで横紋筋融解が生じる機序も低カリウム血症を介している。
一方低ナトリウム血症は、多くの場合骨格筋症状をともなわないが、まれに横紋筋融解をきたした症例が報告されている。チアジド系利尿剤を漫然と使用していた高齢者で脱水、低浸透圧、アルカローシスを生じて横紋筋融解に至っている。
治療に関しては、服用の中止と輸液、電解質の補正が重要である。二次的な腎障害の予防も重要である。
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F その他
- 多くの医薬品が、横紋筋融解の発症時に内服されているが、詳細が不明なものが多い。頻度が高く添付文書にも記載されているものとしては、降圧剤のうちアンジオテンシンII
受容体拮抗剤、H2 受容体拮抗剤、プロトンポンプ阻害剤、各種の消炎鎮痛剤がある。それらの多くは、確かに服用中に横紋筋融解症を生じており、症例報告にもあげられている。しかし、頻度が少ないことと併用薬が多い場合もあり、どこまでが単独に筋障害をきたしたかについては十分な再評価が必要である。
一方、症例報告などで現在まで十分に記載され、その筋毒性がかなり疑わしい医薬品をあげてみると意外と少ない。@〜Eにあげられていない医薬品で添付文書に記載があるものをあげると、シクロスポリン、タクロリムス、コルヒチン(痛風発作予防薬)、ジドブジン(抗HIV
薬・ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬:ミトコンドリアミオパチーを生じる)、オメプラゾール(プロトンポンプ阻害剤:筋痛・筋力低下であり横紋筋融解との関連は不明)などがある。
今後の検索で、併用薬の中から関連が確認されるものが発見される可能性がある一方、筋障害の機序や頻度が明らかでない医薬品も多く残っていくものと考える。相互作用も、各々の医薬品の代謝過程に関与している場合や単一では生じない程度の弱い筋毒性であっても多剤が同時に投与された場合に生じることがあり、一義的にこれらの医薬品に対する対応を決めることは困難である。今後の検討が必要と考える
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