副作用の概要
- (1)自覚的症状
- 小児急性脳症の初発症状は意識障害であり、発症の自覚をすることは特に小児では困難である。症状が比較的軽度でほとんどが可逆性であるカルシニューリン阻害薬によるものでは年長児では視覚異常や頭痛を訴える。
- メトトレキサートでは筋力低下ないし四肢の運動麻痺を訴える。
- (2)他覚的症状(所見)
- 児との意思疎通が急にできなくなったりなんとなくおかしいといったことを母親が感じたりすることは、保護者が児に代わって医療者側に示すことのできる児の自覚症状に匹敵する重要な徴候である。
- 小児急性脳症に共通する他覚的症状として、上述した遷延する意識障害や嘔吐、乳頭浮腫、脈拍・血圧・呼吸の変化、瞳孔・眼球運動の異常などの脳圧亢進症状、けいれんがある。
- キサンチン製剤の場合は、眼球が側方に偏倚しているなどの焦点性けいれんが比較的多い。
- (3)臨床検査値
- 血液生化学検査:血小板減少、AST・ALT上昇、CK上昇、低血糖ないし高血糖、プロトロンビン時間延長などの凝固能異常、BUN・クレアチニン上昇、アンモニア上昇、代謝性アシドーシス、フェリチン高値、薬物血中濃度高値(キサンチン製剤、バルプロ酸ナトリウム、メトトレキサート、カルシニューリン阻害薬)。
- バルプロ酸ナトリウム関連脳症の場合は上記の他、血中グリシンとプロピオン酸上昇、カルニチンとシトルリンの低下を認める。
尿検査:血尿、蛋白尿を認める。
髄液検査:蛋白高値、糖低値、タウ蛋白高値を認める。
- (4)画像検査所見
- 脳浮腫の存在とその程度・部位を判断するための必須検査である。CT所見としては全脳ないし大脳皮質全域におよぶびまん性低吸収ないし局所性低吸収、皮質白質境界の不鮮明化、脳浮腫に伴うクモ膜下腔・脳室、脳幹周囲脳槽の狭小化などの所見を認める。頭部MRIはCTよりも早期に診断するための有用な検査であり、T1強調画像において低信号、T2強調・FLAIR画像において高信号を示す病変の存在や拡散強調画像における高信号を示す病変を認める。
- バルプロ酸ナトリウムでは両側大脳半球皮質、基底核、小脳白質にT2延長像を認める 。
- カルシニューリン阻害薬では後頭葉から頭頂葉の皮質下白質優位に血管性浮腫像を認める。この所見は可逆性後頭白質脳症症候群reversible posterior leukoencephalopathy syndrome (RPLS)と総称され、通常は可逆的であるが、非可逆的である場合もある。
- MRIでは病変部位はT2強調画像、FLAIR画像で高信号、T1強調画像では低信号を示す。
- 可逆性の病変は拡散強調画像(DWI)では低信号〜等信号で見かけの拡散係数(ADC)では高信号を示すが、非可逆性病変の場合DWIでは高信号、ADCでは低信号を示す。
- (5)病理検査所見
- バルプロ酸ナトリウムに関連する脳症の病理所見で広範な髄鞘崩壊、グリオーシス、血管周囲のリンパ球浸潤の所見を認めたとの報告がある19)。カルシニューリン阻害薬に関連する脳症の病理所見では血管内皮細胞の障害、軸索腫大、脳血管炎、反応性星状細胞の出現などが認められる。
- (6)発生機序
- サリチル酸系製剤は、高アンモニア血症、肝機能異常、低血糖、血液凝固異常などを特徴とするライ症候群との関係が示唆されている20)。サリチル酸はミトコンドリアを膨化させ、代謝機能不全を来たすことによりライ症候群を引き起こす。ジクロフェナクナトリウムおよびメフェナム酸はインフルエンザ脳症の予後を悪化させる。ジクロフェナクナトリウムはシクロオキシゲナーゼの活性を阻害することや炎症性サイトカイン産生を助長することなどによる血管内皮細胞障害が原因と考えられている。
テオフィリンけいれんの発症機序として、テオフィリンは、
- @けいれんの閾値を低下させる、
- Aアデノシンの受容体への結合を競合的に阻害する
- B5-ヌクレオチダーゼ活性を阻害し内因性アデノシンの生成を低下させる
- Cピリドキサルキナーゼを阻害しリン酸ピリドキシン濃度を低下させ、GABA生成を抑制する
- Dてんかん性放電の引き金になり、その保持に関与する脳内cyclic GMPを増加させる
- EGABA受容体への直接的阻害作用
などの機序が推定されているが、AのアデノシンA1受容体阻害作用が主体であると考えられている。
バルプロ酸ナトリウム関連脳症に認められる高アンモニア血症の機序については、○aバルプロ酸ナトリウム代謝の過程でプロピオン酸、バルプロイル-CoAが増加し、尿素サイクルにおいて重要な酵素カルバミルリン酸合成酵素T(CPS-T)の活性が阻害される、○bカルニチン低下によって中鎖脂肪酸のミトコンドリア内への取り込み低下によりβ−酸化が抑制される結果アンモニアが上昇するなどが考えられている
。また、バルプロ酸ナトリウム関連脳症は低血糖や高乳酸血症をきたし、結果としてライ症候群類似の臨床所見を招来しうる 。アンモニア血症によって星状細胞内のグルタミン濃度が高値となり、その結果細胞内浸透圧が上昇することによって星状細胞の浮腫をきたす。また、グルタミン酸の取り込みが阻害されることにより細胞外に蓄積したグルタミン酸が神経傷害をもたらすことが推定されている。
抗ヒスタミン薬がけいれんを発症する機序は、脳内へ薬剤が移行することでヒスタミン神経系の機能を逆転させてしまう機序による。ヒスタミンも痙攣抑制的に作用する神経伝達物質であるため、抗ヒスタミン薬が脳内へ移行し拮抗することは望ましくない。
カルシニューリン阻害薬に関連する脳症発症の機序は不明であるが、血液脳関門が機能不全に陥り、血管透過性が更新し、血管性浮腫をきたすことが考えられる。
- この病因としてカルシニューリン阻害薬は血管内皮細胞に対する毒性を持ちエンドセリンの放出による血管収縮、トロンボキサンA2やプロスタサイクリンによる微小血栓などが想定される。またカルシニューリン阻害薬は血液脳関門を通過しないが、放射線照射や骨髄移植、感染、肝障害などによって血液脳関門が障害を受ければ、カルシニューリン阻害薬は容易に中枢神経に移行し、障害をきたすことも一因として考えられている。グリセオールの場合、新生児や飢餓状態ではグルコースの体内供給が不足するため、フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ(FBPase)欠損症では、糖新生の経路に異常があるためグリコーゲンから糖新生を行う。このような状態においてグリセオールを投与すると中間代謝物が増加し、その代謝にATPなどエネルギーを消費するとともに、グリコーゲンリン酸化酵素の活性が抑制される。従ってエネルギー消費の助長およびグリコーゲンからの糖新生の抑制が起こり、低血糖、高乳酸血症、アシドーシスなどを来たす。
- (7)副作用発現頻度(副作用報告数)
- 薬事法第77条の4の2にもとづく副作用報告件数では、小児の急性脳症で平成20年度はテオフィリンが3件、アミノフィリンが2件、平成21年度はテオフィリンが4件報告されている。テオフィリン使用中のけいれんの実数は不明であり、副作用報告で全数を把握しているわけでもない。しかし、けいれん重積を来たし急性脳症様の経過を呈する重症例に関しては、水口の試算 では年間60-80人と推定されている。
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