薬剤による低血糖

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低血糖」「血糖値が低い」「頭がボーッとする手足がふるえる」「アジソン病」「インスリノーマ」「インスリン分泌過剰症」「倦怠感」「心悸亢進」「カルニチン欠乏症」「ドキドキ」「糖尿病」「手掌多汗症」「DV」「シーハン症候群

薬剤による低血糖
(厚生労働省) 血液中のブドウ糖濃度が異常に低い(50 mg/dL 以下)状態をいう。
同義語 血糖低下
症状 冷汗、振戦、意識障害、血圧低下など
原因となる主な薬剤 インスリン、
糖尿病用剤(スルホニル尿素系、ビグアナイド系、α−グルコシダーゼ阻害剤)、
合成抗菌剤(ニューキノロン系、ST 合剤)、
不整脈用剤(ジソピラミド、シベンゾリンなど)、
脳循環代謝改善剤(ホパンテン酸カルシウム)など

コハク酸シベンゾリン・・・副作用
平成20年10月1日〜平成21年2月28日 アラニン・アミノトランスフェラーゼ増加1
意識変容状態1
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加1
血圧上昇1
徐脈1
心停止2
心不全1
心肺停止1
意識レベルの低下1
心電図QRS群延長1
肝機能異常1
低血糖症12
間質性肺疾患3
動悸1
肺水腫1
腎不全1
洞停止1
心電図異常P波1
ペーシング閾値上昇1
心房細動1
昏睡1

低血糖とは?   (厚生労働省
  • 低血糖とは、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が低くなった状態です。血糖値は、健常人では空腹時でも70 mg/dLより低下することはほとんどありません。血糖値が60‐70 mg/dL未満になると、「冷や汗がでる、気持ちが悪くなる、急に強い空腹感をおぼえる、寒気がする、動悸がする、手足がふるえる、目がちらつく、ふらつく、力のぬけた感じがする、頭が痛い」などの症状が出現します。これは低血糖に対して血糖を上昇する働きのあるアドレナリンやグルカゴンが分泌されるために生じる症状で、交感神経症状と呼ばれます。さらに血糖値が30 mg/dL未満になると、「ぼんやりする、ボーッとしている、うとうとしている、いつもと人柄の違ったような異常な行動をとる、わけのわからないことを言う、ろれつが回らない、目の前が真っ暗になって倒れそうになる、意識がなくなる、けいれんを起こす」などの症状が出現します。これは、脳の機能が低下するために生じる症状で、中枢神経症状と呼ばれます。低血糖になっても直ちに治療を行えば危険はありませんが、中枢神経症状が数時間以上続くと、稀に脳の重大な後遺症や生命の危険が生じることがあります。
早期発見と早期対応のポイント
  • 低血糖は、糖尿病のお薬だけでなく、抗不整脈薬などを服用した場合でも起こることがあります。本マニュアルを参考に早期の発見と早期の対応をこころがけてください。
    • 次のような症状がみられた場合には、放置せずに医師・薬剤師に連絡してください。
      1. 冷や汗がでる、
      2. 気持ちが悪くなる
      3. 急に強い空腹感をおぼえる
      4. 寒気がする
      5. 動悸がする
      6. 手足がふるえる
      7. 目がちらつく
      8. ふらつく、
      9. 力のぬけた感じがする
      10. 頭が痛い
      11. ぼんやりする
      12. 目の前が真っ暗になって倒れそうになる
      などの症状が急に出現したり持続したりするが、食事をとると改善する場合
      また、ご家族の方も、患者さんに前に書いたような症状がみられたり、
      1. ボーッとしている
      2. うとうとしている
      3. いつもと人柄の違ったような異常な行動をとる
      4. わけのわからないことを言う
      5. ろれつが回らない
      6. 意識がなくなる
      7. けいれんを起こす
      などに気づいた場合には、薬の副作用の可能性があるので、すぐに医師または薬剤師に相談してください。
      ただし、低血糖になっていても症状がみられない場合も多く、医療機関を受診した時に、血糖を測定してはじめて指摘されることもあります。

    低血糖は、早朝空腹時、昼食前、タ食前、就寝時、とくに食事の時刻が遅れたときにみられることが多いです。また、食事とは関係なく、運動量が多すぎたときにも起こりやすくなります。通常は、「冷や汗がでる、気持ちが悪くなる、急に強い空腹感をおぼえる、寒気がする、動悸がする、手足がふるえる、目がちらつく、ふらつく、力のぬけた感じがする、頭が痛い」などの症状を自覚することが多いです。このような場合、すぐに吸収の速い糖分(砂糖や砂糖を多く含むジュースなど)を摂取すれば通常5分以内に症状は改善します。ただし、α-グルコシダーゼ阻害薬を服用している場合には必ずブドウ糖を摂取してください。一旦低血糖症状が改善しても30分ほどで再度低血糖が起こる場合もありますので注意してください。一方、低血糖を繰り返している場合や乳幼児・高齢者では、上記のような症状を自覚しないで、いきなり「ぼんやりする、ボーッとしている、うとうとしている、いつもと人柄の違ったような異常な行動をとる、わけのわからないことを言う、ろれつが回らない、目の前が真っ暗になって倒れそうになる、意識がなくなる、けいれんを起こす」などの症状が出現することもあります。高齢者では認知症と間違われる場合もあります。このような場合は周りにいる人が吸収の早い糖分やブドウ糖を食べさせてください。あらかじめ家族の方に対してグルカゴンの注射を打つように指示されている場合は、そのようにしてください。症状が良くならない場合や、意識障害があって糖分を口から摂ることができない場合には、すぐに主治医と連絡をとり受診して下さい。
  • (1)インスリンによる低血糖
    インスリン治療を行っているほとんどの症例は低血糖を経験している。特に、インスリンの血中濃度がピークとなる時間帯、各食前の空腹時、深夜から早朝、運動をしている最中あるいはその後、入浴後などに起こりやすい。低血糖の発症頻度は軽症低血糖が30‐50 %/年、意識障害がおきて第三者の助けが必要な重症低血糖が1‐6 %/年である。内因性のインスリン分泌能が枯渇しているか著しく欠乏している症例、血糖自己測定などによる自己管理が十分にできていない症例、厳格な血糖コントロールを達成している症例などに低血糖の頻度は高い。しかし、軽症低血糖の範囲内、つまり低血糖を自覚し正しく対処できるならばほとんど危険はない。また、重症低血糖は可能な限り起こらないようにすべきである。
    医療関係者やインスリン治療を行っている患者の家族などで、稀に隠れてインスリンを注射して低血糖を起こす例があり、詐病性低血糖factitious hypoglycemiaと呼ばれる。
  • (2)経口糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬を含む)による低血糖
    経口糖尿病治療薬による低血糖はインスリン治療に比べれば頻度が少
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    ないものの、常に危険性があることを念頭に置きながら診療を行う必要がある。経口糖尿病治療薬の中では、スルホニル尿素薬が低血糖を起こしやすい。また、速効型インスリン分泌促進薬による低血糖も稀ではない。ビグアナイド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬は単独投与では低血糖は起こりにくいが、スルホニル尿素薬や速効型インスリン分泌促進薬と併用投与すると低血糖を起こしやすくなる。2種類以上の経口糖尿病治療薬の併用やインスリンと経口糖尿病治療薬の併用を行っている場合は低血糖の頻度は増加する。
    (3)その他の薬物による低血糖
    糖尿病治療薬でなくても、一部の抗不整脈薬やキノロン系の抗菌薬でも起こることが知られている。
    シベンゾリンコハク酸塩などの一部の抗不整脈薬はスルホニル尿素薬と同様に、膵β細胞ATP 感受性K+チャネルを閉鎖し、インスリン分泌を促進して低血糖を引き起こす。シベンゾリンコハク酸塩の治療域は70‐250 ng/mL であり、治療域血中濃度でも低血糖を生じることがあるが,高齢者や腎機能低下症例などでは中毒域濃度になって、低血糖が生じやすい。
    ガチフロキサシン(2008年9月販売中止)やレボフロキサシンなどのニューキノロン系の抗菌薬は、膵β細胞ATP 感受性K+チャネルを閉鎖し、インスリン分泌を促進して低血糖を引き起こす。また、末梢組織でのインスリン感受性亢進作用も低血糖の要因と考えられている。高齢者や腎機能低下症例に低血糖を生じやすい。
    (4)患者側のリスク因子
    @ インスリン注射や低血糖についての知識不足
    A インスリン注射量の誤り
    B 血管内へのインスリン注射
    C インスリン抗体
    D インスリン分泌が枯渇(1型糖尿病など)
    E 食欲低下・嘔吐・下痢などのシックデイ
    F 食事の遅れや非摂食
    G 食事・運動療法を開始して間もない
    H 中等度以上の強度の運動後
    I アルコール多量摂取
    J 中等度以上の肝機能障害
    K 中等度以上の腎機能障害
    L 慢性膵炎など膵外分泌疾患
    M 自律神経障害
    N 胃切除術後
    O 高齢者
    などがあげられる(ただし、@‐Cはインスリン治療を行っている場合のみ)
  • (5)投薬上のリスク因子
    インスリンや経口糖尿病治療薬は投薬量が過剰であると低血糖となり、逆に投薬量が不足すると高血糖になる。過剰量と不足量の幅が狭く、患者の状態によっても適切な投薬量が変動する。このように、インスリンや経口糖尿病治療薬はいわゆる匙加減が非常に難しい。したがって、インスリンや経口糖尿病治療薬を投薬している場合は常に低血糖のリスクがあると考えるべきである。
副作用の概要
  • (1)自覚症状
    低血糖の症状は、交感神経症状によるものと、中枢神経症状の二つに大別され、一般に血糖が急速に低下する場合は主として前者による症状がみられる。通常、中枢神経系の機能低下による症状が現れる前に、交感神経刺激作用による症状が認められるために、前駆症状(または警告症状) とも呼ばれる。
    ふらつき、めまい、空腹感、無気力、脱力感、だるさ、生あくび、いらだち、手足のふるえ、動悸、眼のかすみ、複視、頭痛、集中力や計算力の減退、健忘
    (2)他覚症状
    血糖が穏やかに低下する場合、低血糖を繰り返している場合、乳幼児・高齢者では、自覚症状が起こらずに、いきなり中枢神経系の機能低下を中心とした他覚症状が出現することが多い。このような低血糖は無自覚性低血糖と呼ばれる。この場合、家族や周りの人が最初に発見することがある。高齢者では認知症と間違われることもある。しかし、一般には家族など周囲の人が早期発見できることは少なく、意識レベルがかなり低下してはじめて発見される場合が多い。
    交感神経症状:頻脈、発汗、蒼白、低体温、皮膚湿潤
    中枢神経症状:嗜眠、意識障害、異常行動、認知機能低下、痙攣、昏睡、四肢反射の亢進、Babinski徴候陽性、瞳孔反応正常
    (3)検査所見
    低血糖を思わせる症状がみられたときにはまず血糖値を測定し、低血糖の有無を確認することが重要である。健常人の血糖値は空腹時でも70 mg/dLより低下することはほとんどない。通常、60‐70 mg/dL未満になると交感神経症状が出現し、30 mg/dL未満になると中枢神経症状が出現する。急激に血糖値が下降しているときは70 mg/dL以上の血糖値でも低血糖症状が出現することがある。また、無自覚性低血糖では60‐70 mg/dL未満でも交感神経症状が出現しない。症状があろうとなかろうと、血糖値が70 mg/dL未満である場合は低血糖と診断して対応すべきである。
    (4)発症機序
    血液中のブドウ糖濃度(血糖値)は、健常人では1日中狭い範囲に保たれている。これは血液中へのブドウ糖の供給と各組織におけるブドウ糖の利用のバランスが精密に調節されているからである。血糖の調節には血糖を低下させる唯一のホルモンであるインスリンと、血糖を上昇させる働きのあるグルカゴン、アドレナリン、カテコールアミン、成長ホルモン、副腎皮質ステロイドなどのインスリン拮抗ホルモンが重要な働きをしている。
    血糖が低下すると、インスリンの分泌は低下し、ブドウ糖の利用が抑えられる。また、インスリン拮抗ホルモンの働きにより、肝臓や骨格筋でのグリコーゲン分解あるいは乳酸、ピルビン酸、アラニン、グリセロールを原料とした肝臓や腎臓での糖新生が亢進するために、ブドウ糖の供給が増大する。
    血糖値が正常範囲を超えて低下する低血糖が起こる機序としては、インスリン過剰分泌によるブドウ糖利用促進と、インスリン拮抗ホルモンの作用の低下や肝臓や腎臓の機能障害によるブドウ糖供給低下が考えられる。薬物による低血糖の機序についても、インスリン分泌の促進とインスリン拮抗ホルモン作用の低下が考えられる。
    低血糖による交感神経症状はインスリン拮抗ホルモンが活性化していることを意味し、生体にとっては低血糖の防御反応である。中枢神経症状は低血糖により脳機能に障害が起きていることを意味するので、早急の対応が必要である。
副作用の判別基準(判別方法)
  • 低血糖の重要な所見としてはWhippleの3徴が有名である。すなわち、@空腹時の低血糖発作、A低血糖の証明、Bブドウ糖投与による症状の改善、である。これらはインスリノーマの所見として有名であるが、インスリノーマに特有のものではなく、空腹時低血糖症に一般的に認められる所見である。
    交感神経症状や中枢神経症状は低血糖を疑う所見として重要であるが、これらの症状だけでは低血糖とは診断できない。低血糖を疑った場合には必ず血糖値を測定し、60‐70 mg/dL未満である場合は低血糖と診断する。また、症状がなくても、血糖値が60‐70 mg/dL未満である場合は低血糖と診断してよい。
    インスリンや経口糖尿病治療薬(とくに、スルホニル尿素薬か速効型インスリン分泌促進薬)の治療が行われている症例に低血糖が起きた場合は、これらの薬物投与が低血糖の要因である可能性が高い。薬物投与の中止や投与量の減量により低血糖が消失または軽減したならば、薬物投与量の過剰が原因であったと考えてまず間違いない。
判別が必要な疾患と判別方法
  • 糖尿病に対する薬物療法(インスリン、経口糖尿病治療薬)を行っている患者であれば、それらの薬物が低血糖の原因である可能性が高い(3. 副作用の判別基準の項を参照)。
    その他の薬物の投与が原因で起きる低血糖の頻度は少なく、「患者側のリスク因子」が存在することがほとんどである。低血糖が起きた場合に疑わしい薬物の投与を中止して、低血糖が改善したならば、中止した薬物が原因の低血糖である可能性が高い。薬物の中止によっても低血糖が改善しない場合は、下記のような疾患を鑑別する必要がある。
    (1)反応性低血糖
    食後低血糖を認める場合には75 g経口糖負荷試験や食事負荷試験を行い、負荷後5〜6時間までの血糖曲線とインスリン反応を調べる。一般に、血糖上昇とインスリン分泌のタイミングがずれることにより生じる。胃切除の既往のある症例や高カロリー輸液を中止した後によく認められる。
    (2)インスリノーマ
    空腹時低血糖があるにも関わらず、血中インスリンやC-ペプチド濃度が高い。低血糖の程度が軽い場合は、絶食試験により空腹時低血糖を誘発させる。慢性的な低血糖によって過食傾向があり、肥満していることが多い。CT、MRI、血管造影、経皮経肝門脈採血、選択的カルシウム動脈内注入静脈サンプリング法などにより局在診断を行う必要がある。
    (3)詐病性低血糖
    治療とは無関係なインスリン注射や経口糖尿病治療薬の服薬によるものであり、医療従事者や糖尿病患者の家族などにみられるが、診断は困難なことが多い。インスリン注射によるものでは、血中インスリン濃度が高いにもかかわらずC-ペプチド濃度が低いのが特徴的な検査所見である。

    (4)インスリン自己免疫症候群
    インスリン注射の既往がないにもかかわらずインスリンに対する自己抗体が産生され、低血糖症を引き起こす稀な疾患である。血中インスリン値が非常に高く、インスリンとの親和性が低いインスリン抗体が大量に存在する。インスリン抗体に結合したインスリンの遊離によって起こる。SH基をもつ薬物(チアマゾールなど)の投与および特定のHLAとの関連が報告されている。インスリン自己免疫症候群は自然寛解も少なくないが、対症的なブドウ糖投与やステロイド薬投与が有効である。
    (5)膵外性腫瘍
    肝癌、間葉系腫瘍(線維肉腫、横紋筋肉腫など)、消化器癌などの巨大腫瘍が原因で起こる。腫瘍からのIGF-II、ブドウ糖消費の増大、肝障害による糖新生・放出の低下などが低血糖を引き起こすと考えられている。
    (6)インスリン拮抗ホルモン低下
    インスリン拮抗ホルモンの機能不全によって低血糖症が起こる。血中インスリン濃度は低値である。下垂体前葉機能低下症、ACTH単独欠損症、副腎皮質機能低下症、グルカゴン欠乏症などが原因で生じ、各ホルモン値の測定を行う。
    (7)糖原病(I型、III型、VI型)
    肝臓腫大があれば念頭におく必要がある。グルカゴン1mgの静脈注射によるグルカゴン負荷試験を行っても血糖上昇が見られない。
    (8)新生児、乳児、小児の低血糖
    成人とは異なる低血糖症がみられる。新生児一過性低血糖症は、分娩後に胎盤を介するブドウ糖の供給が途絶える時期に起こりやすく、低出生体重児や双胎の新生児、糖尿病の母親から生まれた新生児などにしばしば認められる。 ケトン性低血糖症は幼児期にみられる低血糖症で、長時間の絶食によって低血糖とケトン尿がみられ、けいれんや嘔吐などの症状を示す。新生児アミノ酸、特にアラニン、グルタミンなどの減少によって、糖新生が低下することによるとされている。 インスリン過剰(高インスリン血症)を伴う低血糖症として膵島の分化の異常による膵島細胞症がある。最近、新生児の家族性高インスリン血症性低血糖persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy(PHHI)の一部が、SU受容体の遺伝子異常によることが明らかになった。
治療方法
  • (1)低血糖が起きた場合の緊急対応
    低血糖が起きた場合は直ちに対応する必要がある。交感神経症状による低血糖の症状が起きたが意識が保たれている場合には、5‐20 gのブドウ糖、砂糖、ジュース、キャンディなどの糖質を経口摂取する。ただし、α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の場合は、ブドウ糖を摂取することが重要である。このような患者自身での対処により、通常5分以内に低血糖症状は消失する。糖質摂取により血糖値がいったん上昇しても30分ほどでふたたび低血糖が生じる場合もある。これを遷延性低血糖と呼び、スルホニル尿素薬による低血糖で起こりやすい。糖質の摂取後早期に食事またはスナックを摂取すべきである。いったん低血糖から改善しても再度低血糖が起きる危険が高いため、低血糖が生じた場合は主治医に連絡させるようにする。ただし、インスリン治療による軽症低血糖で、患者自身が低血糖に対して十分な知識を持っている場合はこの限りではない。
    意識障害を伴い経口投与が不可能な重症低血糖の場合には、家族や医療機関での対処が必要である。家族が低血糖に気がついた場合は、まず糖質を口腔あるいは歯肉に含ませるのがよい。また、インスリン治療中で低血糖の危険性が高い患者には、あらかじめグルカゴンを処方して、家族による筋肉注射を指導しておく場合もある。以上のような対応によっても意識レベルが改善しない場合は近くの診療所や病院を受診させる必要がある。血糖測定により低血糖が確認できたならば、50 %ブドウ糖の静注(20‐40mL)を行う。小児の場合は、l0 %ブドウ糖を5 mg/kg/分の速度で注入することで治療を開始し、正常な血糖値まで急速に回復するように注入速度を調節する。グルカゴンの補充療法も効果的である。
    短時間の低血糖であれば、ブドウ糖の静注によって多くは5分以内に回復する。ブドウ糖の静注が行えない場合にはグルカゴンの皮下注も応急処置としては有効である。ブドウ糖の静注を行っても意識が改善しない場合は、ブドウ糖の点滴静注を行いながら、設備の整った病院に搬送する。そして診察と脳CTなどの画像診断などを用いて脳神経系の評価を行い、専門的な治療を行う。ブドウ糖の静注によっていったん意識が改善してもふたたび低下するような遷延性低血糖の場合も専門医や施設の整った病院に搬送する。
    (2)低血糖の原因となった薬物の中止や減量
    経口糖尿病治療薬が原因で起こる低血糖は遷延する可能性があるので、低血糖から完全に回復し、以前のような血糖レベルに達するまでは中止する。インスリン治療は1型糖尿病をはじめとして中止してはならない場合が多く、減量によって対処する。血糖値を頻回に測定して、至適量を再設定する。その他の薬物による低血糖の場合は中止するのが原則である。
    (3)低血糖の予防
    インスリン注射や経口糖尿病治療薬(とくにスルホニル尿素薬や速効型インスリン分泌促進薬)の投与を開始する場合は、低血糖が起きる可能性があることと、低血糖の誘因となる生活習慣の乱れ(食事量の不足や食事時刻の遅れ、運動過多、アルコールの大量飲用など)を避けるように指導することが重要である。また、突発的な併発疾患で食事がとれないときの対処方法については、予め主治医の指示を確認しておく必要があることを指導する(シックデイルール)。
    インスリン治療を行っている場合は、常にブドウ糖、砂糖、アメ・チョコレートなどの糖質を携帯させるべきである。また、原則として血糖自己測定を行わせる。血糖自己測定を行うことにより低血糖の確認ができることは勿論のこと、食事・運動などの日常の生活リズムと血糖値の関係を理解することができるようになる。さらには、血糖値をある程度予測できるので、医師の指示の範囲内でインスリン注射量や補食を自分で調節することが可能である。インスリン注射の調節だけでなく、分食や補食、血糖自己測定などの工夫も重要である。そして、良好な血糖コントロールを維持しつつ、低血糖の頻度を減らすことができるようになる。とくに低血糖の危険性の高い患者には、患者本人だけでなく、家族や周辺の人にも低血糖が起きた場合の対処法をあらかじめ指導しておく必要がある。
    経口糖尿病治療薬を投与している場合も、ブドウ糖、砂糖、アメ、チョコレートなどの糖質(α-グルコシダーゼ阻害薬服用の場合には必ずブドウ糖)を常に携帯するよう勧める。
典型的な症例
  • [症例1] ナテグリニドによる低血糖
    症例:50歳代、男性
    既往歴:心房細動、心不全、甲状腺機能亢進症 上記疾患にて下記薬が投与されている。 ロサルタンカリウム(50mg)1日1錠 朝食後 ベラパミル塩酸塩(40mg)1日2錠 朝夕食後 フロセミド(40mg)1日1錠 朝食後 チアマゾール(5mg)1日0.5錠 朝食後 シロスタゾール(100mg)1日2錠 朝夕食後 ワルファリンカリウム(1mg)1日2錠 朝食後
    現病歴:4年前、糖尿病と腎機能障害を指摘され、ナテグリニド(90mg)1日3錠、各食直前投与が追加投与された。低血糖のエピソードはない。 1か月前、HbA1c 6.0%、血清クレアチニン 1.5mg/dL 4日前から嘔吐・下痢のため食事摂取が困難となったが、服薬は続けていた。意識が混濁してきたため来院した。
    来院時現症:Japan Coma Scale I-3度、血圧 86/62 mmHg、脈拍69回/分、舌乾燥 血液生化学所見:血糖26 mg/dL、HbA1c 5.1 %、BUN 108 mg/dL、Cr 8.8 mg/dL
    経過:低血糖を認めたため、50%ブドウ糖を160 mL静脈注射するも低血糖が遷延、ブドウ糖点滴に切り替え6時間後にようやく100 mg/dL以上となった。入院加療にて2日後Cr 1.74 mg/dLまで改善、低血糖は消失した。ナテグリニドを中止して退院となった。
    考察:ナテグリニドは速効型インスリン分泌薬であり、比較的低血糖は起こしにくいが、本症例のように、食事摂取不良や脱水による急性腎不全があると低血糖の危険が高くなる。このようないわゆるシックデイにはナテグリニド投与を中止するようあらかじめ指導しておく必要がある。

  • [症例2] シベンゾリンコハク酸塩による低血糖 8)
    症例:80歳代、女性
    既往歴:高血圧、直腸癌で直腸部分切除、心不全 上記疾患にて下記薬が投与されている。 カンデサルタンシレキセチル(8mg)1日1錠 朝食後 ニフェジピン徐放錠(40 mg)1日1錠 朝食後 ワルファリンカリウム(1mg)1日2.5錠 朝食後
    現病歴:9月、発作性心房細動を認め、シベンゾリンコハク酸塩(100 mg)1日3錠 各食後および、ベラパミル塩酸塩(40mg)1日3錠 各食後が追加投与された。 11月20日から心窩部不快感が出現した。 11月28日嘔気・嘔吐、食欲不振、全身倦怠感のため受診した。血糖値25 mg/dL と低血糖を認めたため、低血糖の精査・治療目的で入院となった。
    入院時現症:意識清明、血圧142/80 mmHg、脈拍65/分整、神経学的異常所見なし
    検査所見:血糖値25 mg/dL、血中インスリン28 IU/mL、血中C-ペプチド7.2 ng/mL、BUN18 mg/dL、Cr 0.76 mg/dL
    入院後経過:5% ブドウ糖持続点滴(60 mL/hr)を開始したが血糖値30‐70 mg/dL の遷延性低血糖を示した。入院3 日目からは、8%ブドウ糖液持続点滴(60 mL/hr)静注と食事の開始によって低血糖が消失した。入院後の精査でインスリノーマは否定的であり、シベンゾリンコハク酸塩による低血糖を疑った。入院時血清を用いてシベンゾリンコハク酸塩血中濃度を測定したところ1,868 ng/mL と著明高値を示した。

  • [症例3] レボフロキサシンによる低血糖
    症例:70歳代、女性
    既往歴:高血圧症
    現病歴:20年前から糖尿病がありスルホニル尿素薬で治療されていたが、血糖コントロール不良のため1月に入院した。 2月にグリベンクラミド10 mg/日にて血糖コントロール良好となった。 3月に咽頭痛、鼻汁、咳のため、レボフロキサシン400 mg/日を1週間投与した。投与終了時までに空腹時血糖値150 mg/dLから100mg/dLに低下したため、グリベンクラミド7.5 mg/日に減量した。 4月に右母趾に疼痛、腫脹を生じたため、レボフロキサシン400 mg/日を再投与した。投与3日目の朝、発汗多量、流涎、意識消失が起こり、血糖値を測定したところ17mg/dLだった。グリベンクラミドの投与を中止後も5日間低血糖が持続し、ブドウ糖点滴投与が必要だった。


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